2654新生児感染症マニュアル
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51感染症治療薬の概要3果が十分あることも経験される.この蛋白結合率が高いほど血管内にとどまりやすく,分布容積は小さく血中濃度が高くなる.一方,蛋白結合率が低い場合は細胞外液・内液に分布しやすく,分布容積が大きくなり血中濃度は上がりにくい.黄疸を呈する新生児で問題になるのは,アルブミンと結合している非抱合ビリルビンと,その結合を競合してビリルビンを遊離させる薬物(displacer薬)の存在である(セフトリアキソンやスルファメトキサゾールなど).生後早期で血中ビリルビンが高値であるときに,アルブミンの結合部位を競合する薬剤を使用する際には,薬物によるdisplacement作用により遊離ビリルビンが増加し,核黄疸(ビリルビン脳症)を発症させる可能性があることを念頭におかなくてはならない.ビリルビン高値のとき,また低アルブミン血症時にはdis-plaser薬の使用をひかえるようにし,使用せざる得ないときにはアンバウンドビリルビンを測定するなど,十分注意する必要がある.脂溶性薬物が分布しやすい脳の体全体組織に対する割合は,成人に比べ,新生児では6倍と非常に大きいことも特徴の1つである. 代謝薬物の代謝はおもに肝臓で行われる.それらは酸化,還元,加水分解からなる第1相反応と,抱合反応からなる第2相反応がある.その個人差は,成長や発達とともに疾患,環境,遺伝子を含む多くの因子に依存する.第1相反応の酵素であるシトクロームP450(cytochrome P450:CYP)は分子種によって,その発現が大いに変化するが,活性は大まかに,胎児期は成人の約20%で,生後,漸次上昇し,乳児期後半には成人に近い活性をもつようになる.胎児の肝臓で発現しているCYP3A7は出生直後がピークで,その後は速やかに低下し消失する.この酵素は胎児期に,デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(dehydroepiandrosterone sulfate:DHEA-S)や催奇形性のあるレチノイン酸などを解毒することで胎児を守っている可能性がある.出生後数時間でCYP2E1の活性が急激に上昇し,CYP3A4とCYP2Cが生後1週間のうちに上昇するのに対し,CYP1A2は生後1〜3か月頃より上昇する(図2)1).一方,第2相反応のグルクロン酸抱合酵素であるUGT1A1は,出生時には成人の約1%程度の活性しかなく,生後約100日で成人の活性に近くなる.UGT1A3は新生児期に成人の約30%の活性があり,一方,アセトアミノフェンのグルクロン酸抱合に関与するUGT1A6は新生児期にはわずかな活性が認められるに過ぎない.またUGT2Bはクロラムフェニコールの抱合に関与するが,その発現は遅く,gray症候群の原因とされc

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