2658子どもの発育・発達と乳幼児健診
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Chapter21健康な乳幼児の発育・発達胎児では胎盤を基礎とした胎児循環が成立しています1).その特徴は,①胎盤の存在,②肺への血流がきわめて少ない,③動脈管が開存している,④卵円孔が開存している,⑤静脈管が開存している,という点にあります.胎盤の血管抵抗は低いため,心臓から拍出される総心拍出量の40%は胎盤に流れます.心係数でいえば,3 ㎏の胎児で左室が2.9 L/分/m2,右室が3.6 L/分/m2,両心室あわせて6.5 L/分/m2拍出しており,この量は(係数で考えれば)成人とも大きく変わりません.胎児期中期に至っても肺へ流れる血流は総拍出量の3〜4%でしかなく,出生直前でも10〜20%程度です.胎盤に流れる40%と肺への10〜20%を除くと,全体の40〜50%が胎児の身体を灌流することになりますが,特に脳,腎,肝,心臓などへの血流が多いです.また,胎児ヘモグロビンは酸素との結合が強く,低い酸素分圧でも酸素飽和度は高めに維持されるため,低い酸素分圧状態でも身体への酸素供給には有利になります.臍静脈の酸素分圧はおおむね34 mmHg,酸素飽和度にして80%くらいです.全身から心臓に戻ってくる静脈血の酸素飽和度は40%なので,これが下大静脈の心房入口部で臍静脈血と混和され,酸素飽和度は70%に上昇します.この血液の大部分は卵円孔を通過して左房に流入するので,左室や上行大動脈の酸素飽和度はおおむね65〜70%程度となります.右心室や肺動脈への血流は上大静脈からの血流と下大静脈からの血流の混合で,酸素飽和度は55〜60%となっており,この血液の大部分は肺動脈から動脈管を通過して下半身に流れ込みます.すなわち,胎児では,脳を含めた上半身には酸素飽和度65〜70%の血液が,下半身には55〜60%の血液が供給されることになるのです(図1).出生後の体循環の変化で特筆すべきは,胎盤循環の消失,動脈管・静脈管の閉鎖,卵円孔による右-左短絡の消失です.また,出生とともに高かった肺血管抵抗は急速に低下します.生後24時間で平均肺動脈圧は平均体動脈圧の約半分まで下がります.その後も緩徐な低下は続き,2〜6週で成人と同様なレベルとなります.生後の肺血管抵抗の低下は換気の確立とそれに伴う血中酸素分圧の上昇の影響が大きいとされます2)(図2).Chapter 1▲▲健康な乳幼児の発育・発達身体機能の発達5 呼吸・循環系33 胎児期から成人に至るまでの発育・発達の経過

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