第Ⅰ部◦知っておきたい小児の皮膚の診かた・考えかた3.天然保湿因子(NMF)表皮突起 図1 表皮の構造乳頭層メルケル細胞神経メラノサイト角質層顆粒層有棘層基底層ランゲルハンス細胞1 皮膚の構造と機能3胞とその隙間を埋める細胞間脂質からなる角層バリアである.家の外壁に例えていうと,表皮角化細胞がブロックで,細胞間脂質がブロックの間をふさぐモルタルにあたる.細胞間脂質としてはセラミドが約半分で,残りがコレステロールや中性脂肪である.細胞間脂質が不足すると角層バリアが損なわれ,水分を失いやすくなり,ドライスキンになる.細胞間脂質は,加齢に伴い減少することが知られている.角層バリアの下にあり,表皮におけるもう1つのバリアが,顆粒層の表皮角化細胞同士をつなぐタイトジャンクションである.タイトジャンクションはオクルディン(occludin)やクローディン(claudin)といった蛋白質から構成され,細胞間隙をシールすることで物質の漏れを防ぐ.これらのバリアを通過することができるのは,おおよそ500 Da以下の分子に限られるため,蛋白質のような大きな分子はほぼ通り抜けることができない.ただし,アトピー性皮膚炎のようにこれらの表皮バリアが壊れていればもう少し大きい分子も通過することができる.したがって,外用薬として使える物質は一般に500 Da以下となる.アトピー性皮膚炎でよく用いられるタクロリムス軟膏は分子量が822であることから,正常で表皮バリアが保たれている場合は薬剤の吸収はあまりなく,炎症により表皮バリアが壊れていれば通過することが可能で,薬理作用を発揮することができる.皮膚における水分保持に重要なのは,表皮角化細胞やケラチン,細胞間脂質などに加えて,天然保湿因子(natural moisturizing factor: NMF)があげられる.NMFは主にアミノ酸やその派生物から構成され,表皮角化細胞内で水分を保持する.また,NMFは平均すると弱酸性であり,皮膚が弱酸性を保つうえで一定の役割を担っている.有棘層から顆粒層に移行するに伴い,表皮角化細胞にはケラトヒアリン顆粒が出現するが,ケラトヒアリン顆粒の主成分の1つがプロフィラグリンである.プロフィラグリンは分解されて「フィラグリン」という蛋白質になるが,このフィラグリンがNMFの原材料であり,種々の酵素が作用することでNMFが産生される.日本人のアトピー性皮膚炎では,30%程度の患者にフィラグリン遺伝子の異常が報告されていることから1),このNMFの異常に伴う皮膚水分量の低下すなわちドライスキンが,アトピー性皮膚炎の発症に関わっていることが考えられる.また,乳児では天然保湿因子の量が成人の半分くらいしかないことが報告されている2).
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