Ⅱ1●● 30 臨床症状みんなの基本事項医師向け基本事項専門家向けトピック 淋菌感染症(淋病)はクラミジア感染症に次いで多くみられる性感染症(STI)です.淋菌感染症は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)の感染によって発症します.淋菌はヒトの粘膜以外では生存が難しく,乾燥に弱いため,患者の粘膜から離れると数時間で感染性を失います.そのため,性行為以外で感染することはほとんどありません. 淋菌感染症は,腟性交,口腔性交,肛門性交を含むあらゆる性行為によって感染し,性器,咽頭,直腸・肛門の各部位にそれぞれ感染する可能性があります.淋菌感染症の感染率は研究によりまちまちですが,感染者との 1 回の性行為による感染率は 30~50%,性行為を繰り返すことによる感染率は 93%という報告があります3). 患者の多くは「淋病=痛い」というイメージをもっていますが,実際には,特に女性や咽頭,直腸・肛門感染では無症状のことが多く,症状の有無だけで判断することはできません.男性でも,尿道炎であっても症状の強弱は様々で,軽度の違和感や分泌物の増加のみを訴える場合があります.これら無症候性の淋菌感染症は感染拡大に大きく関与すると考えられます. 男性で最も多いのは淋菌性尿道炎(gonococcal urethritis:GU)です.2~7 日間の潜伏期間を経て,排尿痛,尿道からの膿性の分泌物で発症することが典型的です.分泌物は黄色~黄緑色を呈することがあります.海外では「burning pain(焼けるような痛み)」と表現されるほどの強い痛みを伴うこともありますが,症状の程度は幅広く,「パンツは汚れるが,痛くはない」という訴えもしばしば聞かれます. 一方,女性では淋菌性子宮頸管炎が典型的です.帯下*1 の増加,性交後出血,不正出血,下腹部痛,排尿痛などの症状がみられることがありますが,感染に気診 断
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