診断を付けるかもしれない.しかし,前述のとおり,より優れた診断があり得たとしても,本件当時の医療水準を満たす診断だったのであれば,過失は認められない.第2に,厳密には,診断そのものが過失となりうるかというと,診断を誤ったことのみならず,診断を誤ったがために,何らかの追加検査や治療を行わず,それによって悪い結果が発生すれば,因果関係も認められ,損害賠償責任が認められるのであるから,診断の誤りと追加検査や治療の不実施とが相まって過失になると考えられている.(3)子どもにおける「急性の脳障害」について診断エラーと過失について,子どもにおける「急性の脳障害」に関する裁判例1,2についてみると,まずもって重要なのは臨床症状であることがわかる.嘔吐や嘔気は,非典型的な臨床症状であるが,頭蓋内圧亢進に基づくものである場合もある.どういった場合の嘔気や嘔吐が頭蓋内圧亢進に基づくものであるかの判断は難しいところである.この点,裁判例1は頭痛と嘔吐・嘔気があり,嘔吐が終わると頭痛が寛解したことを理由として,頭蓋内圧亢進を疑い,頭部CT検査を行うべきとしている.このような裁判所の判断は,結果的に出血を伴う囊胞があったことから遡った後知恵のようにも見えるが,一つの考え方として教訓としておきたいところである.これに対し,裁判例2は,画像上,水頭症の判断基準を満たさず,水頭症と診断できないとしてももやもや病であるとは診断できている.さらに,脳出血と脳梗塞を発症していたことから,頭蓋内圧が亢進することを想定して管理すべきであったことを前提として,頭蓋内圧亢進の症状である頭痛や嘔吐,嘔気が継続していたことをもって,脳室ドレナージなどを行わなかった過失を認めている.結論として,診断エラーはなかったが,むしろ診断が正しかったからこそ,これを前提として管理をし,頭痛や嘔吐,嘔気が継続していたことをもって頭蓋内圧亢進を疑うべきというものであり,正しく診断できてもそれに基づく処置が不十分であると過失が認められるという意味で教訓となる.13111 司法と診断エラー第第第第第第123
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