2682小児神経診断エラー学
2/14

第1章 総論1 1 はじめに診断エラーという用語は,“diagnostic error:DE”の訳語として広く呼び習わされているが,それが真の訳語であるならば,原語は“diagnosis error”であるべきだろう.diagnosticの接尾辞“-ic”は名詞を形容詞にするものであり,語源的には“pertaining to”を意味する形容詞用法であるため,訳語には「〜に関する」という意味合いを加える必要がある.そのため診断「関連」エラーがDEの正しい訳語(の候補)であることをはじめに述べておきたい 1).詳細は本文に譲るが,診断エラーという訳語では,「医師個人の認知の誤り」と同義となってしまう可能性が高い.最近の研究によりDEは医療者個人の推論の問題にとどまらず,社会認知科学の領域まで取り込む広範な概念となり,個人やチームを超えて,最終的には国家的な課題としての対応が迫られている. 2 診断関連エラー小史と米国医学アカデミー「医療における診断を改善する」報告書 2)診断関連エラーの歴史は古く,20世紀初頭の論説においても,臨床診断と解剖所見との乖離について懸念が表明されており,無知や誤った判断による臨床的エラーと配慮不足などの社会的エラーがその原因としてあげられている 3).2005年に米国医療の質研究庁(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)から「Advances in patient safety」報告書の一環としてDEがまとめられ 4),政策的な検討が開始され,2011年にはDEの国際学会として,“The Society to Improve Diagnosis in Medicine”が設立されて活動を開始し,有力学術雑誌においてもDEの特集が組まれるようになった.2015年に米国医学アカデミー(National Academy of Medicine:NAM,旧称診断関連エラー総論─社会的認知理論ファミリーを理解する2

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る