2682小児神経診断エラー学
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ている.古今著名な先人の診断がのちに誤りだったと判明することがあるが,これこそ医学なる学問の進歩の結果である.現在,「診断エラー」のおもな原因は認知エラーと考えられており,その歴史を概略する. 2 疾患概念の変遷臨床医は診断するための基本として,各疾患の概念や病態を医学的に学習し言語的に認知している.知識化され体系化された医学用語ではあるが,本来は複数の意味が時代とともに付加されており,元となる語源とその意味の変遷を知ることは人間の思考パターンを知るよい手がかりを与えてくれる.たとえばリウマチ“rheuma”なる用語は,『ヒポクラテス全集』(紀元前4世紀)のなかで人体の各部についての章ではじめて現れる.「病気は体を作る成分,すなわち体液の乱れからおこる」とする体液病理学説に基づき,直訳すると「流動物,分泌物,流れ」を意味する.ギリシア医学での“rheuma”は“catarrhos(カタル)”と同義に使用し,「脳から流れ下ってくる」の意味である.この頃は現在のリウマチ熱を想定し,発熱が持続し関節症状が次々に移り流れることから命名された.初めてリウマチと関節疾患を結びつけたのはパリの医師Baillouで,彼の死後に出版された『The Book on Rheumatism and Back Pain』(1643年)でそれが明らかにされた.ただし何世紀にもわたり痛風および痛風体質なる言葉は非特異的に関節炎と同義であった.Sydenhamははじめてリウマチなる漠然とした疾患群のなかから特定の疾患を区分することをはじめた.急性の有熱性多発関節炎を痛風と分離し,「おもに若い元気な者に発作が起こる」と記載した.大部分は現在のリウマチ熱に対応する.一方では患者が慢性化することもあると述べている.「死の頃には肢体不自由に陥り,四肢が使用できなくなるとともに,手指は瘤をつくり出っ張ってくる」と記載しており,今日の関節リウマチに相当する.このような医学史的観点からの疾患概念の変遷を知ることが,疾病に対する言語認知を深めるうえで有用である. 3 疾病分類の歴史ガレノスの影響は西洋では強かったが,教条主義的病気理論の型紙に合わせて12第1章 総論

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