第2章 各論5 1 小児救急医療と訴訟筆者が数十年前に小児救急・集中治療の領域を専攻した際に,まず手に取った書籍のひとつに『Preventing Malpractice Lawsuits in Pediatric Emergency Medi-cine』というAmerican College of Emergency Physicians(ACEP)から出版されているテキストがある 1).このテキスト内の高リスク症例を解説した章立てには,発熱(髄膜炎・敗血症)・嘔吐(ショック)・腹痛(急性虫垂炎)・胸痛(不整脈)・外傷(裂創)・急性陰囊症・大腿骨頭すべり症・投薬過誤・児童虐待が列挙されている.このなかでも発熱・嘔吐・腹痛はきわめて日常的な主訴・来院理由であり,一般小児科・初期救急外来現場では,無限に診察することになる.とくに腹痛は恐ろしい存在で,各内科系,外科系いずれも腹腔内・腹腔外の疾患が玉石混交であり,かつ,致死的疾患が多く紛れ込んでいる(図1).劇症型心筋炎や糖尿病性ケトアシドーシスの初発症状として腹痛がほぼ確実に存在しているが,急性胃腸炎として初期対応されていることがほとんどであり,治療開始が遅れて死に至ることが現代でもまだある.来院タイミングがきわめて早期化している現代においては,急性虫垂炎の患者が最初から右下腹部痛を典型的に訴えることは少なく,心窩部痛など紛らわしいプレゼンテーションで来院することも多い.腸重積などでも同様の課題があり,1〜2回の嘔吐だけで血便もなく来院したタイミングでどこまで診断を詰められるのか,とても悩ましい.こうした来院タイミングの早期化と典型的症状の欠損は,小児救急医療における現代の挑戦的課題であるといえる.神経疾患にかかわる救急医療現場においても,同様の課題が存在する.上述した章立てでは発熱(髄膜炎)がそれに該当するが,ワクチンの普及により細菌性髄膜炎が少なくなってきたことは幸いである.一方,わが国では諸外国に比して小児救急医療現場での診断エラー79第第第第第第123
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