2684ダウン症児の学びとコミュニケーション支援ガイド 改訂第2版
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149 ダウン症は,これまで自閉スペクトラム症(ASD)などの障害に比べて適応上問題となる行動は少なく,幼児期や児童期において育てづらさが取り上げられることはありませんでした.一方で,青年期以降のダウン症者のなかには,集団において不適切な行動が見られる方も多くいます.なかには生活全般に不活発となり,心身ともにひきこもり,日常生活や就労に向けた支援が難しくなることもあると支援現場から報告されてきました.また,20歳前後に生活適応水準が急激に退行する,いわゆる「急激退行」が青年期・成人期のダウン症者に一定の割合で出現していることが報告されて久しいです1-4).「急激退行」の原因は不明ですが,この退行の現れる年齢層が共通で,今のところ医学的検査において特定の所見が確認されていないことから,ダウン症の心理的な特性と密接に関連し,しかもライフステージにおいて青年期・成人期に現れているため,この時期の環境変化が一つの要因となって生じていると考えられます.さらに,「急激退行」の発症前後のプロセスやその後の療育や支援の経過をたどると,彼らの成育環境とも深くかかわりのある症状であることに気づきます.しかし,「急激退行」の現れるダウン症者がいる一方で,青年期・成人期の環境変化にも比較的柔軟に対応している方も多くいます.それは,生まれもった気質や素因に,養育環境や成育歴などが影響して,その人の性格・行動の特徴となっているからです. ダウン症において幼児期から児童期の養育と,こだわりからの切り替えに代表される行動の柔軟さとの間には関連があるという報告があります5).成人期のダウン症者において比較的柔軟にこだわりから切り替えのできている方々の保護者は,それまでの成育歴のなかで有意に多くの事柄を大切に養育していました.しかも,それらの事柄は共通してライフステージ各期と密接に関連するものでした.具体的には,幼児期から児童期の前半においては保護者と一緒に「運動する」ことを大切に,その後の児童期には「早寝・早起き」に代表される生活のリズムと「身だしなみ」に代表される生活習慣を,さらに青年期には「興味・関心の広がり」を大切にして養育していました.この結果は,ダウン症という障害ゆえの性格・行動の特性があったとしても,その後の養育環境や成育歴などが影響し,一人ひとりの性格・行動の特徴となっていくことを推測させるものです.同時に,ライフステージ各期の発達に応じた養育や教育の大切さを示唆するものでもあります.11 生涯発達の視点からみた青年期・成人期の姿と課題ダウン症者の生涯発達支援 ダウン症者の生涯発達支援 ―幼児期から生涯を見据えた支援――幼児期から生涯を見据えた支援―11C 成人期における支援

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