150C 成人期における支援 児童期以降のダウン症者において問題とされる行動は,どのように生じ,変化していくのか,その機序を図1に示します. ダウン症児は,その障害のため出生後の長い期間,泣きや発声,笑い・微笑み,アイ・コンタクト等の反応が弱い状態が続きます.すなわち,本人から周囲への働きかけが少ない状態で乳児期を過ごすことになります.その結果,主たる養育者である保護者との相互作用(やりとり)が少なくなります.その状態のまま集団に入っても,そこでの行動は,おとなしく,ニコニコといる姿が,さらに,活動場面においても受け身的で周囲から様々にされる姿が代表的な姿として現れます.しかし,これらの行動がこれまで問題となることはありませんでした.したがって多くの場合,そのまま児童期を迎えることになります.児童期の集団では,一人ひとりが集団の一員としての行動を要求されます.その集団で自ら人とかかわっていく行動がとれないダウン症児は,結果として集団から外れる姿として,そして,一人身勝手な行動をとる姿としてとらえられることになります.児童期におけるこのような行動に対する周囲の取り組みは非常に重要です.しかし,多くの場合,「本人の意思を大切に」や「無理をさせない」と周囲の大人が考えて対応した結果,集団に参加できるようになるための手立てを積極的に見つけないままに児童期を過ごさせてしまうことが多いようです.この児童期の過ごし方では,本人も集団参加のための手立てを身につけられないまま青年期・成人期に向かうことになります.青年期・成人期は,一般に,児童期より大きな集団で,しかも本人に対して役割のある参加が求められるようになります.本人は,たとえそこでつまずいても,参加のきっかけを見つけることも,つまずきに向けて取り組む手立てもないままに集団にいることになるのです.その行動は,集団から外れた一人身勝手な行動であり,集団の意思に反した拒否的な行動としてとらえられます.その結果,青年期・成人期のダウン症者には,集団において不適切な行動をとる方が多いとみられているのではないでしょうか. ダウン症者は,繊細で傷つきやすく,プライドが高い一方で,大きな環境の変化や良好とはいえない環境にさらされたとき,想像以上にストレスを感じることが知られています.ストレスに22 児童期以降の問題とされる行動の現れとその機序問題とされる行動の現れの機序図1乳幼児期児童期成人期やりとり(相互作用)経験の不足 ➡ 消極性 ➡ (社会性の低さ) ➡ 拒否的主たる養育者との相互作用の不足周囲への働きかけが少ない集団において・受け身的で,される姿等・ニコニコと静かにいる姿集団において・一人身勝手な行動・集団からはずれる姿集団において・拒否的な姿,行動等・一人身勝手な行動 社会性の発達に問題反応の弱さアイ・コンタクトの微弱発声の微弱微笑みや笑いの微弱泣きの微弱
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