ゲノム異常に基づく治療対応4 Part185作用機序 ポリ(ADP‒リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬は相同組換え修復欠損(HRD)がみられるがんを標的とする新しい治療法である.HRDを示すがんでは,PARP阻害薬によってDNA二本鎖切断が修復されないまま蓄積し,修復不可能なまでにゲノムが不安定化した結果,合成致死とよばれるプロセスを経て,腫瘍縮小効果がもたらされる.1.DNA修復機構 DNAは,紫外線,放射線,化学物質などの外部要因や,細胞内の代謝活動によって損傷を受ける.この損傷を修復する方法として,いくつかの主要なメカニズムがある.2本のヌクレオチド鎖が二重らせん構造を形成しているDNAで,一本鎖損傷は校正機構,ミスマッチ修復機能,塩基除去修復,ヌクレオチド除去修復などで修復され,二本鎖切断修復は非相同末端結合や相同組換え修復などにより修復される.これらの修復機構は細胞の生存やがんの予防などに重要な役割を果たしている.2.PARPとは PARPはDNA修復において重要な役割を果たす酵素で,DNAの一本鎖切断を認識し,修復を促進する.DNA損傷部位に結合して活性化されたPARP‒1は,トポイソメラーゼ,ヒストンおよびPARP‒1自身など,様々な核内標的蛋白質上に,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を基質として長いポリマー鎖(PAR)を合成する(PAR化).そこへ種々の修復蛋白がリクルートされることで切断部が修復される1). 既知のPARPファミリーには17種類の蛋白質が存在し,DNA一本鎖切断の修復に関与する主要なファミリーはPARP‒1である. PARP阻害薬はPARPの機能を阻害することで一本鎖切断の修復を妨げる.3.HRDとは 相同組換えが欠損し,二本鎖DNAの切断を正確に修復できなくなった状態を指す.HRDはゲノムの不安定性を引き起こすことが知られている.BRCA1/2病的バリアント以外にもHRDは様々な原因で起こるとされている.海外では卵巣がんの多くを占める高異型度漿液性がんの約51%がHRDであり,うち約14%にgBRCAが認められる2).4.合成致死 合成致死とは,DNA二本鎖切断が修復されないまま蓄積し,修復不可能なまでにゲノムが不安定化した結果起こる細胞死である. PARP阻害薬を投与するとPARP機能が阻害され,一本鎖切断の修復が妨げられる.HRDの状況にある腫瘍細胞では,すでに相同組換え修復が機能していないため,二本鎖切断が修復されずに蓄積し,最終的に細胞死となる.また,PARPの作用機序として不活化PARPが一本鎖DNAの切断部に捕捉されることで局在化し,DNA修復が抑制され,細胞のDNA複製も阻止される.その結果,捕捉PARP‒DNA複合体,複製フォークの停止または崩壊により,より深刻なDNA二本鎖切断が引き起こされる(PARP trapping).このメカニズムはプラチナ製剤がDNA架橋をつくりDNA複製を妨げ,高い細胞毒性を示すことに類似している.1 PARP阻害薬
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