2689産婦人科ゲノム医療の必修知識
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着床前診断1 Part ●PGT—Mは単一遺伝子疾患に対する着床前診断のことで,その実施には倫理面の配慮が欠かせ ●日本では重篤な遺伝性疾患児の出産を回避する目的で容認される. ●遺伝学的検査は,病的バリアントを直接検出する方法(直接法)と,連鎖解析による病的バリKey Point!17はじめに PGT‒Mは単一遺伝子疾患に対する着床前診断を指し,胚の段階で遺伝性疾患の責任遺伝子を解析することで次世代の発症を防ぐ目的に行われる.倫理的問題に配慮するため,日本では日本産科婦人科学会(以下,日産婦)の見解により重篤な疾患が対象とされ,日産婦が主導する審査委員会と実施施設の倫理委員会による審査を経て実施を承認される. ヒトに対するPGT‒Mの歴史は,1990年にHandysideらによる妊娠例が報告1)されたことに端を発した.このときは,6~8細胞期の分割期胚から割球1細胞を生検し,Y染色体特異的領域のPCRにより胚の性別判定をすることで,X連鎖潜性遺伝性疾患の遺伝を回避している.男児の胚は非罹患胚も含め排除されてしまうという大きな問題を含んでいるが,この時点での医療水準ではこれ以上のことを求めるのは困難であろう.日本では1998年に日産婦がPGT‒Mに関する最初の見解を発出,2004年にDuchenne型筋ジストロフィーに対しはじめて実施が承認された.現在では,胚盤胞の栄養外胚葉細胞を生検,全ゲノム増幅を経て次世代シーケンサーやPCRなどの技術を用いて病的バリアントの存在診断を行っている.日本におけるPGT—Mの運用1.PGT—Mの対象 日本においては法的規制が存在せず,日産婦が見解により自主規制をしているのが現状である.「原則,成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が出現したり,生存が危ぶまれる状況になり,現時点でそれを回避するために有効な治療法がないか,あるいは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要がある状態」2)を重篤性と想定し審査対象としている.2.審査・承認までの流れ 審査は「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査に関する審査小委員会」(以下,小委員会)が担う2).施設承認と症例承認の2段階からなり,まずは,①施設基準を満たしたうえで申請し実施施設としての承認を得ることからはじまる.続いて,②PGT‒Mを希望したカップル1組ごとに症例審査申請をすることになる(図1).小委員会は,日産婦理事または倫理委員会委員,日産婦や日本小児科学会,日本人類遺伝学会,日本遺伝カウンセリング学会から推薦を受けた専門家により構成され,幅広い意見が反映されるようになっている.この小委員会で合意に至らなければ,臨床倫理個別審査会(以下,個別審査会)による審査に付される.個別審査会では,日産婦会員,審査対象疾患と関係の深い臨床関連学会3 PGT—Mない.アントを含んだハプロタイプの同定(間接法)によって行われる.

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