最近,「起立性調節障害」もしくは「OD」という診断名が,学校,身近な人,さらにはメディアでも聞かれるようになりました.子どもが朝起きづらく学校に行けなくなったとき,あるいは朝起きていてもいざ登校しようとするとふらふらする,また頭痛や腹痛がある場合,学校の先生から「病院に行ってODではないか相談してきてください」と言われて医療機関を受診される,またテレビやネットで見て,保護者や子ども自身が「ODではないか」と思って受診される,といったケースも増えています.なぜODがこれほどまでに注目されるようになったのでしょうか.その理由は,ODと診断される子どもの数が非常に多いことと,ODは思春期の成長の著しい時期に好発し,不登校に合併するケースが多いことの2点であると考えられます.最近では,ODは「朝起きられない病気」「学校に行けなくなる病気」というふうにとらえられることもありますが,それは正しいとはいえません.ODと診断される子どもの困りごとのうち,朝起きづらく午前中調子が悪く,学校に通えなくなって医療機関を受診するため,そのように考えられてしまいますが,不登校が問題となっていなかった1960年代に診断基準が確立されている「昔からあった」問題です.ただ現在と違う点は,当時のODは思春期の女子に多い一過性の不調で特に治療をせずとも自然によくなっていた,ということです.当時の典型的なODとは,春先に朝礼の途中で気分が悪くなって倒れる女子中学生といったケースです.「貧血ではないか」と医療機関で採血しても赤血球数は正常で,起立試験をするとODと診断され,早寝早起きを心がけるよう指導されてよくなる,というのが典型的な経過でした.それが最近は,男子にも女子にもみられ,重症化,長期化し,成人期まで医療を要することも少なくありません.このように考えると,この30~40年間の子どもたちの生活にODの経過を変えるような何かがあったのではないかと思わざるを得ません.そして,その背景にあるものは生活習慣の変化です.新型コロナ禍を経て,ODはさらに増加,重症化していることからも,子どもの生活習慣がかかわっていることは間違いないでしょう.このように,ODに対する見方は,思春期の予後良好な一過性の不調から学校に行けない心の病へ,さらに純然たる身体疾患,そして身体疾患としてのODと心身症としてのOD,不登校を前景とするODと変化しつつあります.ODをみる専門家に関しても,小児科領域においては小児心身医学領域が中心でしたが,小児循環器領域でも新たな取り組みがみられます.また成人科では,ODとは異なった視点,診断名で診療を行っています.本書では,ODの概念について小児科と成人科の視点から病態を解説し,歴史的経緯を紐解き,国内外の新たな知見や多職種による支援を紹介し,さらに当事者の言葉を編纂して,さまざまな角度からODの子どもたちに迫りたいと思います.2025年3月関西医科大学総合医療センター小児科教授 石﨑優子iiiはじめに
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