2696褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2025
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の約 10%が転移性である.約 20%は傍神経節から発生し,主に腹部に発生するが,骨盤腔や胸部にも発生する.その 15%~35%が転移性である.近年,無症候性で副腎偶発腫瘍として発見される症例が増加しており(PCC の約 25%),副腎偶発腫瘍の 5~10%が PPGL とされる.副交感神経性 PPGL は全 PPGL の約 10%で,カテコールアミン非産生性,無症候性で成長が遅く,主に頭頸部領域に発生する.SDHD 遺伝子病的バリアント陽性例は両側性・多発性,SDHB 遺伝子病的バリアント陽性例は転移する頻度が高い1,6). C 臨床的重要性 PPGL は希少疾患であるが,①病変が限局性の症例が多く,早期診断と腫瘍の切除による治癒可能性が高い,②カテコールアミン過剰産生に伴う発作性高血圧や各種心血管系の合併症による生命危機の可能性がある,③全症例の約 20~40%が遺伝性である,④一定の割合で転移性である,などの点から,適切な早期診断と治療が必須である.1)カテコールアミン過剰産生 二次性(内分泌性)高血圧の原因の 1 つで,未治療の場合は急激に発症し致死性の高血圧クリーゼを呈する危険がある.その他,心筋梗塞,不整脈,大動脈解離,腫瘍内壊死,腫瘍破裂などによるショック,タコツボ型心筋症,高血圧性脳症,脳血管疾患による突然死,心不全など,生命危機をもたらす合併症を起こす.2)PPGL の発症に関係するドライバー遺伝子の病的バリアント 20 を超える原因遺伝子が特定されており,症例の 20~40%に生殖細胞系列の病的バリアントを認める9).PPGL 関連遺伝子は,SDH,VHL などの低酸素関連シグナル経路に影響する遺伝子群(クラスター 1),RET や MAX などのキナーゼシグナル経路の増加に影響する遺伝子群(クラスター 2),CSDE1 や MAML3 融合遺伝子などの Wnt シグナルに影響する遺伝子群(クラスター3)に分類されている(遺伝子解析の項参照).病的バリアントの存在は転移リスクとも密接に関連し,特に SDHB 遺伝子病的バリアントとの関連が最も注目される.遺伝子学的解析は①患者の予後推定,②疾患リスクを有する血縁者の若年から生涯にわたる継続的なモニタリングと疾患の早期発見,③家族のカウンセリング,④転移例における分子標的薬などの治療戦略の策定,などの臨床的意義がある10).一方,①検査は保険適用がなく自費,②長期にわたる専門的なサーベイランスと継続的なカウンセリング体制が未整備,などの課題がある(第Ⅰ章—12 遺伝学的検査,遺伝カウンセリング参照)3)転移性 PPGL すべての PPGL は潜在的に転移性であるが,特に腹部 PPGL,SDHB 遺伝子病的バリアント陽性例での転移リスクが高い.非クロマフィン組織に病変が存在すれば転移性と判断できるが,それが明らかでない場合は,臨床的,生化学的,組織病理学的特徴および遺伝学的所見などから,個々の症例において転移のリスクを総合的に評価し,リスクの程度に応じて生涯にわたるモニタリングを行う(第Ⅰ章—14 予後およびライフロング・サーベイランス参照).転移性と診断された場合は,集学的な治療戦略で治療する.4)副腎偶発腫瘍 メイヨークリニックにおいて 2005~2016 年に治療を受けた PPGL 患者における検討11)では, 31 総 論

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