医療的ケア児の概要A7栄養的課題医療的ケア児の食と栄養の支援的障害の原因となる疾患は多様であり,①未熟性(低出生体重児,早産児),②解剖学的な構造異常(口唇口蓋裂,巨舌,小顎症,喉頭軟化症,食道閉鎖症など),③神経系または筋系の障害(脳性麻痺,染色体異常,低酸素性虚血性脳症,ミトコンドリア脳筋症,脊髄空洞症,筋ジストロフィーなど),④咽頭・食道機能障害,⑤全身の疾患(感染症,心疾患,呼吸器疾患など)がある.自閉スペクトラム症や知的障害のあるこどもは器質的な問題がなくても,心理・行動的な問題から摂食嚥下機能の獲得が遅延して支援が必要となる2,3).また,前述の②解剖学的な構造異常のこどもでは,外科治療によって器質的な問題が改善された後でも,経管栄養依存症,食事拒否などの心理的な問題が生じて摂食嚥下訓練に難渋し,経管栄養を継続するケースもある. 機能的障害によって医療的ケアが必要となるこどもの多くは出生後早期から救命を最優先とした医療処置を受けている.その時期は定型発達のこどもが哺乳から離乳食を経て段階的な経験を積むことで摂食機能を獲得していく発達のタイミングと重なる.また,栄養的には,乳児発育に必要な栄養素や感染防御物質を含有した母乳やそれに代わる育児用ミルクを中心とする時期から,離乳食によって乳汁以外のたんぱく質をはじめ様々な食材を摂取していくことで乳汁だけでは足りない栄養素を補給しながら消化管機能が発達し,腸内細菌叢の多様性も増加していく時期と重なっている.医療的ケア児の摂食嚥下機能の獲得に向けた摂食訓練や,成長発達のための栄養評価および栄養ケアの開始は,病態が安定し生活環境が整ってからとなり,遅延してしまうことが少なくない. 課題はおもに3点である.まず医療的ケア児は,適正体重が個別に異なり必要栄養量の算出が容易ではない.栄養補給量,栄養ルート〔経口摂取,経管栄養,静脈栄養(parenteral nutrition:PN)〕と摂取栄養内容,栄養摂取タイミングを計画,実施していくために,摂食嚥下機能と呼吸機能,消化管機能,筋緊張といった変化する病態の評価と,継続的なモニタリングによって成長発達を個別に評価していくことが重要である(C医療的ケア児の栄養管理参照). 2点目に易感染性,意欲低下,嘔吐,湿疹などの症状と栄養との関連を見逃されやすい.必要エネルギー量が少ない場合には,たんぱく質,多量ミネラル,電解質の不足が生じやすい.また,単一の栄養剤投与になると,含有量の少ない栄養素欠乏のリスクがあり,定期的な栄養評価を行い,早期の対応が大切である(D—1栄養障害参照). 3点目に栄養ケアが単なる栄養投与作業となれば,介護者と医療的ケア児にとっては負担感が増大してしまう.経管注入であっても,「栄養」と「楽しみ」のある食事タイムとなるように,栄養ケアの計画,実施においては,病態の評価だけでなく,医療的ケア児の通園・通学・リハビリテーションや,介護する家族の生活にも十分に配慮することが大切である. 医療的ケア児の食と栄養の支援の基本は図2に示すように,①原疾患の医療を継続,②栄養評価・栄養ケアによる成長・発達の支援,③摂食嚥下機能の評価と摂食指導,④家族と一緒に食事(経管栄養も含む)を楽しむための支援である.医療的ケア児は成長発達期にあり,摂食嚥
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