2704自己炎症性疾患診療ガイドライン2026
4/6

52疾患の解説疾患背景家族性地中海熱(FMF)は,周期性発熱と漿膜炎を主徴とする遺伝性自己炎症性疾患である.FMFの臨床的特徴を有する疾患に関しては,地中海沿岸地域でbenign paroxysmal peritonitisという疾患概念が以前より確立されていた 1, 2).1997年に国際家族性地中海熱研究会(International FMF Consortium)は,詳細な連鎖解析によってその遺伝子座を染色体16p13.3に絞り込み,責任遺伝子MEFVを同定してその遺伝子産物をパイリン(pyrin)と命名した 3).ほぼ同時期に,フランス家族性地中海熱研究会(French FMF Consortium)によっても同様の結果が示されている 4).本症は基本的に常染色体潜性(劣性)遺伝と考えられているが,臨床的にFMFと診断されてもMEFV遺伝子に変異を認めない例や,顕性(優性)遺伝形式と思われる家系も報告されている.MEFV遺伝子の同定後,わが国においても多数のFMF症例が報告されている 5〜9).2009年に厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業「本邦における家族性地中海熱の実態調査」班(研究代表者:右田清志)による全国調査が行われ,その臨床像が解析された結果,わが国のFMF症例は発症年齢が18.2±14.3歳と海外症例に比べ高く,発症から診断まで平均8.8年を要していることがわかった.おもな症状は,発熱:97.5%,腹膜炎症状(腹痛):65.8%,胸膜炎症状(胸痛):37.8%,関節炎:30.2%,皮疹:7.6%,頭痛:18.4%であり,海外症例に比べ,腹膜炎症状(腹痛),アミロイドーシスの合併が少ないことが判明した 6).FMFの発作は典型発作と不完全型(非典型)発作に分類されるが 10),日本人のFMF症例には非典型的な症状を呈する例が多く存在することも判明した(全体の約4割)6〜9).典型的なFMFの発作は発熱や漿膜炎症状の期間が半日から3日以内であるが,非典型的な発作では,発熱期間が数時間以内であったり,4日以上持続したり,38℃以上の発熱がみられない(微熱)こともある.また,漿膜炎症状が典型的でなく(一部に限局している,激しい腹痛はなく腹膜刺激症状を伴わないなど),関節痛,筋肉痛などの非特異的症状がみられることがある.これら病像を呈する症例は不完全型(非典型的)FMFであると考えられ,MEFV遺伝子バリアントとの関係が明らかになっている.不完全型FMFではおもに典型例で認められるexon 10バリアントが認められることは少なく,exon 1(E84K),exon 2(E148Q,L110P-E148Q, R202Q, G304R),exon 3(P369S-R408Q)のバリアントを認める傾向があり,コルヒチンの有効性が認められた.MEFV遺伝子バリアントとFMF臨床像との関連についての検討の結果,exon 10バリアントを認めた症例は,exon 1,exon 2,exon 3バリアントを認めた症例に比べ有意に漿膜炎(胸膜炎,腹膜炎)の頻度が高く,発熱期間が短いことが判明した.またexon 10以外のバリアントを有する症例は,漿膜炎の頻度が低い一方で筋肉痛や関節痛などの頻度が高く,遺伝子型と表現型(臨床症状)に関連があることが示されている 6〜9).しかしながら,典型例に関しては多くの臨床的エビデンスが蓄積されているものの,非典型例に関する報告はわずかであり,今後のデータ蓄積が必要である.Ⅰ第2章疾患の解説と推奨第2章家族性地中海熱(FMF)D

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る