2707臨床医必読 最新IgG4関連疾患 改訂第3版
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gG4関連疾患の概要ⅠI詳細については他項を参照されたい4).1888 年,Mikulicz は両側性,無痛性に涙腺と唾液腺に顕著な腫瘤を形成した 42 歳の男性症例を報告した5).1896 年,Küttner が顎下腺の炎症性腫瘍を報告し6),その後 Mikulicz 病との異同が問題となった.1933 年,Sjögren が keratoconjunctivitis sicca(Sjögren 症候群)の詳細な病態を報告した7).この後,Mikulicz 病と Sjögren 症候群の間で疾患概念の混乱が生じるようになった.1953 年,Morganと Castleman は Mikulicz 病の病理所見を検討し,Mikulicz 病は Sjögren 症候群の一亜型と結論した8).病理学の大家がこのように結論したことにより,以後欧米では Mikulicz 病が独立した疾患単位として扱われなくなった.しかし現在,Morganと Castleman が検討した症例は Mikulicz 病典型例とは考えにくく,彼らが Mikulicz 病に特徴的とした所見は Sjögren 症候群の典型的な組織像であったと考えられている.一方わが国では 1987 年,今野らが Mikulicz 病を両側耳下腺,顎下腺,涙腺の2 組以上の対称性の腫大を伴い,慢性に経過する原因不明の疾患と定義し,臨床所見,画像所見より Sjögren 症候群とは異なる疾患であると提唱した9).1993 年,鈴木らは血中 IgG4 高値を呈し,GC 治療に良好に反応した Sjögren 症候群症例を報告したが,典型的な Mikulicz 病と考えられ,IgG4 との関連を示した先駆的な業績である10).2000 年,Tsubota らは臨床像の違い,Apo2.7 ならびに Fas/Fas—L 陽性細胞が Mikulicz 病で少ないことより,両者は異なった疾患であると報告した11).2002 年,山本らにより,Mikulicz 病では血中 IgG4 高値と組織中に IgG4 陽性形質細胞浸潤を認め,GC 治療に良好に反応することが報告され12),Sjögren 症候群とは異なった病態として,疾患概念が確立した.さらに,AIP に合併する涙腺・唾液腺病変が Mikulicz 病に相当することが明らかになり,IgG4—RD の疾患概念成立に至った.b.AIP の歴史 1961 年,Sarles らにより高γグロブリン血症と膵病変局所にリンパ球形質細胞浸潤を呈し,自己免疫機序が想定される膵炎例が chronic inflam-matory sclerosis of the pancreas として報告された13).しかし,これらすべてが 1 型 AIP に合致するか詳細は不明である.1978 年,Nakano らは GC治療が有効であった膵炎例を報告した14).本例はMikulicz 病が先行し高 IgG 血症を呈し,膵管像はthreadlike small caliber of the main pancreatic duct と表現され,AIP の臨床像に一致する.唾液腺の生検ではリンパ球形質細胞浸潤を認め,最終的には Sjögren 症候群の合併と診断された.同様の症例が日本膵臓学会の前身である日本膵臓病研究会で何例か報告され15,16),また特発性慢性膵炎の一部症例で病態の成立に自己免疫現象が介在する可能性が指摘された17).1991 年,Kawaguchi らは硬化性胆管炎に合併した 2 例の膵炎の病理像を検討し,広汎なリンパ球形質細胞浸潤,線維化,閉塞性静脈炎などの特徴的所見を lymphoplasma-cytic sclerosing pancreatitis(LPSP)として報告した18).LPSP は現在,1 型 AIP の病理所見として広く認められている.また,胆管病変,唾液腺病変を合併し,病理所見の類似性より,本疾患がComings らが提唱した全身疾患である MIF に相当すると考察した19).本疾患を最初に全身疾患の視点で捉えた優れた業績である.1992 年,Toki らは特異な膵管像を呈する 4 症例を「びまん性膵管狭細型慢性膵炎」として報告した20).その臨床的特徴は,① 高齢者で性別は男性 3 例,女性 1 例,② 症状は軽度の腹痛と閉塞性黄疸を呈し,③ 検査所見では胆道系酵素の上昇および,④ 超音波検査,CT でびまん性膵腫大を認め,さらに ⑤ 組織所見でリンパ球浸潤,線維化を認める,と記載され AIP の特徴に合致する.1995 年,Yoshida,Toki,Takeuchi らは GC 治療が奏効した膵管狭細型慢性膵炎自験例と Nakano,Kawaguchi らの症例を含めた国内報告 11 例の臨床的特徴を表 1 のようにまとめた21).高γグロブリン血症,各種自己抗体の存在,膵組織へのリンパ球浸潤,他の自己免疫疾患の合併,良好な GC 反応性を認めることより,本症を「自己免疫性膵炎(AIP)」と呼称することを提唱した.1997 年,Ito らも 3 例の AIPを報告している22). これらの業績は 2002 年にわが国から提唱された日本膵臓学会「自己免疫性膵炎診断基準(2002年)」作成の礎となり23),また,これらを拠りどころに多くの AIP 症例が,わが国ならびに諸外国,112.発見の経緯と研究の歴史

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