IgG4 関連疾患(IgG4—related disease:IgG4—RD)は,全身の多様な臓器に線維化性病変を形成する慢性炎症性疾患であり,血清 IgG4 高値およかりとなる.本疾患は進行性であるにもかかわらず,しばしば自覚症状に乏しく,気づかれないまま重篤かつ不可逆的な臓器障害に至ることがある.しかしながら,早期に診断され適切な治療が行われれば,予後は概して良好であることから,症状が顕在化する前の段階で潜在的患者を同定することが,IgG4—RD 診療において極めて重要であるといえる.1.IgG4—RD 発症のリスクファクター IgG4—RD の病因は未解明な点が多いものの,近年の研究によりその一端が徐々に明らかになりつつある.生活習慣との関連では,喫煙者は非喫煙者に比べて IgG4—RD の発症リスクが有意に高く,オッズ比(odds ratio:OR)は 1.79 と報告されている1).また,IgG4 関連自己免疫性胆管炎および自己免疫性膵炎を対象とした研究において,ブルーカラー労働が IgG4—RD の独立したリスクファクターであることが示された2).環境因子としては,アスベストが IgG4—RD の主要病態の 1 つである特発性後腹膜線維症のリスクファクターであることが,過去の報告ならびに 2 件の大規模ケースコントロール研究において示されている3,4). 遺伝的因子に関してはわが国の IgG4—RD 患者857 人を対象としたゲノムワイド関連研究よりH L A—D R B 1*0 4:0 6, *0 4:0 3, *0 4:0 5,*04:10 が 疾 患 感 受 性 遺 伝 子 で あ り,HLA—DRB1*09:01, DQB1*03:03 を疾患保護遺伝子であると報告された5).HLA—DRB1 04:06,04:03,04:05,04:10 が疾患感受性遺伝子と03:03 が保護遺伝子として同定された.中でもHLA—DRB1 04:06,DQB1 03:03 においてはHLA—DRB1 蛋白質の抗原提示領域(Gb ドメイン)の 7 番目のアミノ酸残基(DRB1—GB—7)がバリンである場合,疾患リスクが上昇(OR:2.01)することが示され,これらは Th2 および制御性 T 細胞(Treg)によるサイトカイン応答が関与することが示唆された. 以上の知見から,IgG4—RD の発症には遺伝的因子,環境因子の複合的な相互作用が関与していると考えられるが,その全貌はいまだ明らかではない.今後,発症病態の理解が深まり前駆的病態の段階でリスク群を特定することが,早期診断および発症予防の鍵となる可能性がある,2.血清 IgG4 値の上昇のリスクファクターの検討 血清 IgG4 は,IgG4—RD の診療において診断,疾患活動性の評価,再発の予測に用いられている最も有用なバイオマーカーとされている.筆者らは血清 IgG4 の上昇要因を明らかにすることが,IgG4—RD の早期診断につながる知見を提供しうると考えた. これまでに健常人を対象とした報告では,男性および高齢者で血清 IgG4 値が高いとするデータ6)や,スペインの住民コホートにおいて,対象者の 1.2% に血清 IgG4 の上昇を認め,特に男性において高値が多いとの報告7)がある.しかしながら,健常人の血清 IgG4 値と生活習慣や遺伝的因子との関連を包括的に検討した大規模研究はこれまで存在せず,血清 IgG4 値の上昇が将来的なIgG4—RD の発症リスクを反映するかどうかも不明であった. そこで筆者らは長崎県五島市における大規模地域コホート「Nagasaki Islands Study(NaIS)」を基盤とし,健常地域住民を対象とした血清 IgG4 値び IgG4 陽性形質細胞の浸潤が診断の重要な手がし て, ま た HLA—DRB1 09:01 お よ び DQB1 56Ⅰ IgG4 関連疾患の概要9潜在的 IgG4 関連疾患
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