2709小児泌尿器疾患マニュアル
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が出現し,その存在下でLeydig細胞が分化する.Sertoli細胞は抗Müller管因子(anti-Müllerian hormone:AMH)を分泌し,Müller管由来の内性器(子宮,卵管,腟の上部1/3)の発達を抑制する.一方,Leydig細胞はテストステロンを分泌し,Wolff管から精巣上体・輸精管などの男性型内性器の発生を促進する.Ley-dig細胞から分泌されるテストステロンは,外陰部でジヒドロテストステロンに変換され,外性器の男性化を促進する.また,テストステロンは精巣の下降や外性器の成熟も刺激する.胎児期における脳への男性ホルモン曝露は脳の男性化を促進する.なお,AMHはSertoli細胞機能の,テストステロン産性能はLeydig細胞機能のマーカーとなる.性分化の各ステップにおける障害,例えば性染色体の異常,性腺発生に関与する遺伝子の機能異常,アンドロゲン合成障害・作用障害,AMH合成・作用障害などが起こると,性分化過程が非典型的となる.2)性分化疾患とは性分化疾患とは,上述の性分化過程が先天的に非典型的である状態を指す.性分化疾患が診断される契機としては,新生児期・乳児期における非典型的な外性器(atypical/ambiguous genitalia),社会的女児における精巣様構造物の存在(鼠径ヘルニアの精査時に発見されることなど),思春期における無月経などの二次性徴の発来異常,あるいは社会的女児における男性化徴候の出現(陰核肥大など)がある.特に,新生児期に非典型的な外性器が見つかった場合には,性別判定が必要となる.なお,性別違和(gender dysphoria)や性別不合(gender incongruence)とよばれる状態は,割り当てられた性(assigned gender)と実感する性(experienced gender)に乖離がある状態を指す.このように,性分化疾患と性別違和・性別不合とは異なる概念である.性分化疾患の診療を行う際には,社会的な性を考慮する必要があるが,性分化疾患における生物学的な性のバリエーションと,性自認における実感する性のバリエーションを混同しないことが大切である.3)性分化疾患の捉え方の変遷性分化疾患を英語で表記すると,現在では differences of sex development(DSD)となる.しかし,以前は disorders of sex development(DSD)と表記されていた.この変化は,性分化疾患の捉え方の変遷を示している.つまり,DSDは,以前は「disorder(疾患)」と捉えられていたが,現在では「difference(体質)」と認識されるようになっている.性分化疾患を「体質」と認識することで,保護者や本人の精神的葛藤が和らぎ,診療に対する心理的な抵抗が減少しうる.28性別不詳児と性分化疾患

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