疾患概要1精索静脈瘤(varicocele)は,内精静脈に血液が逆流し精索内の蔓状静脈叢(pam-piniform plexus)が怒張・うっ血をきたした状態である.男性不妊における精索静脈瘤が占める割合は30.2%であり,明確な原因としては最多である.精索静脈瘤は,10歳未満の男児ではまれであり,10〜15歳にその頻度は急激に増加する.青年期の14〜20%にみられ,成人期でも同様の頻度である.思春期の身体的発達と精索静脈瘤の発生には関連がある.精索静脈瘤は左側に多く(約90%),両側例は2〜10%である.左側に多い理由として,解剖学的特徴がある.内精静脈は,右側では直接下大静脈に流入するのに対し,左側では左腎静脈に流入する.左内精静脈は,右に比べ長く,左腎静脈に直角に流入する.そのために,静脈圧が高くなり,蔓状静脈叢は怒張する(図1).精索静脈瘤は,精巣機能に悪影響を及ぼす可能性があり,成人期の精索静脈瘤の約20%は男性不妊の原因となる 1).検査所見として,精巣容積の低下,精子濃度や運動率の低下を認める.精巣の病理学的変化として,精細胞や精母細胞の成熟停止,精細管の萎縮や基底膜肥厚,Leydig細胞の過形成などがみられる.血液のうっ滞による精巣温度の上昇,静脈圧上昇に伴う精巣内の低酸素状態,精巣内毒性物質の増加に伴う精巣内酸化ストレスの上昇,視床下部-下垂体-性腺系ホルモン異常などが,精巣組織の細胞周期停止やアポトーシスを起こし,精子形成能低下や不妊の原因となると考えられている.診断・検査の進め方2小児期および青年期の精索静脈瘤は,ほとんどが無症状であり,患者もしくは家族が陰囊部の腫脹や塊(腫瘍)として気づくことが多い.陰囊痛や陰囊部違和感精索静脈瘤第5章思春期に多い疾患120
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