2711向精神薬を紐解く
6/10

a) メチルフェニデートはナルコレプシーにのみ適応をもつ メチルフェニデートはスイスで 1944 年に合成され,1954 年にドイツではじめて販売された.シナプス前膜のドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害して,シナプス間隙のドパミンとノルアドレナリン濃度を高め,興奮性神経伝達を増強する(図 6).日本では 1958 年にうつ病と抑うつ神経症を適応症に発売され,1978 年には適応にナルコレプシーが追加された.消失半減期が 3~4時間と短いため,朝昼の 2 分割投与が必要となる.依存形成を避けるため,できる限り少量投与を心掛ける.薬剤起因性不眠を惹起することがある.MAO 阻害薬との併用で交感神経刺激作用が増強され血圧上昇などのリスクが生じるため,投与中または投与中止後 14 日以内の併用は禁忌である. 1990 年代にメチルフェニデートの乱用や依存症が大きな社会的問題となり,1995 年の再評価ではうつ病への適応が狭められ,抗うつ薬の効果が不十分な難治性うつ病あるいは遷延性うつ病とされた.さらに 2007 年にはうつ病への適応が全面的に削除され,現在のナルコレプシーのみの適応となった.2008 年からはリタリン流通委員会に申請し,登録された医師と薬局のもとでのみ処方する流通管理が行われている.「麻薬及び向精神薬取締法」で第 1 種向精神薬に指定されており,厳重な保管が義務づけられている.それでもインターネットを介して不法に入手しようとする動きがあり,「ビタミン R」,「R‒ball」,「skippy」などといったリタリン® のインターネット・スラングがある.152DAT阻害NAT阻害メチルフェニデート即放錠DAT:dopamine transporter,NAT:noradrenaline transporterDAT阻害モダフィニル● 第 5 章(附)図 6 メチルフェニデートとモダフィニルの受容体結合特性過眠症治療薬〈各論〉

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る