第5章(附)いろ 作家,色かわ川たけ武ひろ大b) ぺモリンは最近使われなくなった ぺモリンは 1913 年に合成され,メタンフェタミンとカフェインの中間の中枢興奮作用を示す.日本では 1960 年にうつ病・うつ状態に認可されたが,使用されることが少なく,1973 年に製造が中止された.しかし,ナルコレプシーの治療上必要欠くべからざる医薬品として専門医と患者からの要請を受け,1979 年に再評価され,1979 年にはナルコレプシーおよび近縁傾眠疾患の適応追加を得た.ドパミン放出促進によって大脳皮質を賦活すると想定されるが,その作用機序は十分に解明されていない.アンフェタミン類とは化学構造が異なり,交感神経への賦活作用は少ない.現在はベタナミン®(三和)のみが市販されている.「麻薬及び向精神薬取締法」で第 3 種に指定されている.重篤な肝障害による死亡例の報告があり,諸外国では販売が中止された.依存性があり,現在は気分障害の臨床で用いられることはない.緑内障,狭心症,甲状腺機能亢進症,てんかんなどのけいれん性疾患をはじめ禁忌となる疾患が多く,昇圧薬,MAO 阻害薬,グアネチジンなど併用注意の薬剤も多い.c) モダフィニルはメチルフェニデートとともに流通管理薬 モダフィニルは 1976 年にフランスで開発され,1994 年から販売されている.日本では 2007 年にナルコレプシーに認可され,2011 年には CPAP 使用中にもかかわらず日中眠気の強い閉塞性睡眠時無呼吸症候群に,そして 2020 年には特発性過眠症に追加承認された.詳細な作用機序は不明だが,ドパミントランスポーターに弱い親和性を示し,シナプス間隙のドパミン濃度を増加させる(図6).覚醒作用は比較的穏やかで,ノルアドレナリンα2 受容体や GABA 神経系を介した間接的な作用もあると思われる.消失半減期は約 12 時間と長く,通常は朝 1 回投与で効果が持続するが,個体差が大きいので朝昼と 2 分割の投与が必要な人もいる.長期投与により耐性が形成されることがあり,休薬日を設けることが有用である.メチルフェニデートよりも依存性が少ないとされるが,アルコールやニコチンなど他の物質依存のある人には注意が必要である.モディオダール適正使用委員会によって,登録された医師と薬局のもとでのみ処方できる.「麻薬及び向精神薬取締法」で第 1種に指定されており,厳重な保管が義務づけられている.(1929~1989)は徹夜麻雀にちなんでつけたペンネーム阿佐田哲也(朝だ徹夜)のほうが有名かもしれない.10 歳のころからナルコレプシーの症状があったようで,当初は入眠時幻覚が年に数度とまれであった.しかし,10 代後半には入眠時幻覚も頻繁になり,しばしば睡眠発作や情動脱力発作に襲われ,「私は毎日,生家の一室で平均 16 時間ほど万年蒲団の中に横たわって居眠っていた」といった状態になった.病院受診をしなかったため病名がわからず,本人はてんかんか精神病と考えていたようである.長期入院に備えて入院費を稼ぐつもりで「阿佐田哲也」の名前で週刊誌に連載した「麻雀放浪記」がピカレスクロマン(悪漢小説)の傑作となった. 色川は子どもの頃から,朝起きて顔を洗う,歯を磨く,学校に行って勉強するという人並みのことができず,自分はなまけものでエキセントリックだという自覚があった.小学生の途中から学校に行かずに浅草の町を徘徊し,中学生で無期停学となって敗戦を迎えた.やがて焼け跡に散在していた賭場に出入りして,博打で喰いしのぐことを覚えた.20 歳を超えたころから出直そうと考え,娯楽雑誌の編集153Column 33色川武大のナルコレプシーとの闘い過眠症治療薬〈各論〉
元のページ ../index.html#7