2711向精神薬を紐解く
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a) アトモキセチンは抗うつ薬として開発された アトモキセチンは抗うつ薬として開発された選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)である(図 1).前頭前野にはドパミントランスポーターがほとんど存在しないため,ノルアドレナリントランスポーターがドパミンも調節する.ADHD は前頭前野のドパミンやノルアドレナリンの機能不全と考えられ,ノルアドレナリン再取り込みを阻害する三環系抗うつ薬の有効性が報告されていた.アトモキセチンはシナプス間隙のドパミンとノルアドレナリン濃度を高め,線条体には影響しないため依存性は起こりにくい.2002 年に米国で非中枢刺激性の ADHD 治療薬として承認され,日本では 2009 年に 6 歳以上の小児に認可され,メチルフェニデート徐放剤に先駆けて 2012 年には成人 ADHD にも認可された.効果は穏やかで,効果発現が遅く,継続投与して 2~6 週後に効果が表れる.耐性や依存性はないので,長期服用に向く.副作用は頭痛(22.3%),食欲減退(18.3%),傾眠(14.0%)などである. チック症やジル・ドゥ・ラ・トゥーレット症候群の第一選択薬はアルピプラゾールであるが,ADHD を合併しているときはアトモキセチンが第一選択薬として用いられる(Hamamoto Y, et al.:Brain Dev 41:505‒506, 2019).スポーツ選手の ADHD 症状にも使われている(Reardon Cl et al:Phys-ic Sport Med 46:611‒617, 2016).b) メチルフェニデートは生まれ変わった メチルフェニデートはシナプス前膜でドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し,シナプス間隙のドパミンとノルアドレナリン濃度を上昇させて作用を示す(図 1).その徐放剤(コンサータ®)は錠剤表面の薬剤が溶出し,次に浸透圧により錠剤内部の薬剤が外に押し出されて,約 12時間薬効が持続するように工夫されている.消失半減期を延長することで依存のリスクが軽減した. 2007 年に 6 歳以上の ADHD への適応が認可され,2013 年には 18 歳以降の成人への追加適応が承認された.ADHD 適正流通管理システムにて,処方医師と医療機関,調剤管理薬剤師の登録制となった.不整脈や運動性チックなどには禁忌である.1 か月以上の服薬中断があった場合は,初期用量からの服薬再開となる.副作用は食欲減退(42.1%),不眠症(18.5%),体重減少(12.0%)などがある.コンサータ® も短時間作用型メチルフェニデートのリタリン®(第 5 章「睡眠薬」の「(附)過眠症治療薬〈各論〉」図 6 参照,p.152)と同様に第 1 種向精神薬に指定され厳重な保管が義務づけられている.c) グアンファシンは降圧薬から転身した 降圧薬として開発され,後シナプスの選択的α2アドレナリン受容体作動薬である(図 1).欧州では 1979 年に降圧薬として承認されたが,血圧低下作用は緩和で降圧薬としての評価は低かったが,199● 第 7 章 小児精神神経疾患薬  小児精神神経疾患薬〈各論〉小児精神神経疾患薬〈各論〉

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