2717小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 2025年版
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第9章22222222222222便22 2 2 歳未満の乳幼児における便秘症の診断と治療上排便がみられるものは,母乳栄養児では 76.4% を占め,人工乳栄養児(0%),混合栄養児(36.4%)6).母乳にはヒトミルクオリゴ糖(HMO)が多く含まれており,これは難消化性のプレバイオティクスとして短鎖脂肪酸(SCFA)の産生を促し,便中水分量を増加させる.まに比べて有意に多いた,乳汁中のパルミチン酸は,母乳ではその多くが sn-2 位に結合しており,膵リパーゼによる選択的消化を受けずに吸収される.このため遊離脂肪酸の産生が少なく,便を硬くする不溶性の脂肪酸カルシウム塩が形成されにくい.一方,人工乳のパルミチン酸は sn-1,sn-3 位にあり,膵リ7).さパーゼによって消化され遊離脂肪酸が作られることで,脂肪酸カルシウム塩を形成しやすいらに母乳を介して移行する乳酸菌やビフィズス菌の作用もあり,これらによって母乳栄養児では軟便となりやすいまた,排便回数と便の硬さには正の相関がある.これは,年齢とともに大腸通過時間(CTT)が長くなるためである2)2 歳未満の乳幼児における慢性機能性便秘症の有病率2 歳未満の乳幼児における慢性機能性便秘症の有病率について,Rome IV 診断基準を用いた機能性消化管疾患(FGIDs)に関する 20 研究のシステマティックレビュー(SR)がある.0〜4 歳の有病率9).Rome III 診断基準あるいは Rome IV 診断基準を用いた 12 研究のレビュー(うち 3 研究は前述のは 1.1〜31.7% で あ り,0〜12 か 月 で は 1.1〜12.1%,13 か 月〜4 歳 で は 8.9〜29.5% で あ っ た20 研 究 に も 含 ま れ る )で は,0〜4 歳 の 有 病 率 は 1.3〜26.8% で あ り,0〜1 歳 の 有 病 率 は 1.3〜17.7%,1〜4 歳では 7.0〜26.8% であったRome III 診断基準あるいは Rome IV 診断基準による診断かで有病率に相違はないが,報告により有病率にばらつきがあるのは,疫学調査が少ないことや便秘の定義が異なることに由来する.これらの結果から,専門家によるコンセンサスでは,乳児における慢性機能性便秘症の有病率は9〜13).一方,日本の乳児に関する検討では,月齢に関係なく,排便回数約 15% と推定されているが 1 回 /4〜5 日以下の乳児がおよそ 2% とされている3)乳児における便秘の機能的要因生後 1 年の間に,乳児の栄養は通常,母乳から乳児用調製粉乳へ,その後,流動食から固形食へと移行する.このような移行期には,食物繊維や水分の摂取量が不足することが多く,便秘を1〜3, 8〜13),生後引き起こす可能性がある.硬便を排泄する際の痛みが,便秘の 1 番の原因となるが数か月間の排便痛の要因は完全にはわかっていない.母乳と人工乳の組成の違いから,硬便は母14)のに対し,プレバイオティクスやプロバイオティクス5, 10).乳栄養児のわずか 1% で認めるに過ぎないのサプリメントを摂取していない人工乳栄養児では 9.2% にみられる乳児では,排便回数,硬さ,排便時の痛みなどから慢性機能性便秘症の存在を疑う.その他の乳児期の便秘行動としては,背中を丸める,足や身体を硬くするなどがあり,随伴症状として,い1〜3, 8〜13).高位中枢支配が完成する 12〜15 か15),排便を我慢することで直腸内に巨大硬便が形成さらいら感,食欲低下,早期満腹感などが知られている月以降では「排便がまん」が可能となるためれ,排便時の痛みがさらに増すという小児特有の「小児の便秘症の悪循環」(図 3-4)(p.24)が生じる.乳児にみられる便秘は,自然に改善する治療不要な症状とみなされることが多い.慢性機能性16),「こどもの便秘はそのうち自然便秘症の患児の 17〜40% では,便秘の症状は 1 歳前に生じるが8).6).1〜3).10).基本的事項133

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