2717小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン 2025年版
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第10章重2心身障害2222222便22明の精神運動発達遅滞があげられる.原因疾患により脳障害の重症度や予後も異なり身体機能に大きな差があるため,重症児の機能性便秘症では,症状や治療において症例の個別性が非常に高いことに留意が必要である.なお,身体・臓器が成長した後の学齢期以降の低酸素脳症による重症児は,新生児期から幼児期早期発症の重症児と異なり多臓器への低酸素障害の影響が強く,消化管機能障害を同じレベルで論じることは難しいことも認識する必要がある.また,染色体異常や先天異常症候群など先天性疾患の場合は,直腸肛門奇形(特に肛門位置異常は見逃されがちである)や腸回転異常や Hirschsprung 病(HD)など先天性の器質性便秘症の鑑別も怠ってはならない.2)けいれん・過度の緊張・側彎症と消化管機能の異常重症児は発生原因にかかわらず中枢神経系の障害は共通しており,けいれん・過度の緊張,廃用性骨萎縮・骨粗鬆症,側彎症などを合併する.それらに付随して,呼吸器,循環器,消化器,泌尿器に様々な影響を受けることになる.消化器系では,摂食嚥下機能障害,空気嚥下症,胃軸捻症,胃食道逆流症・食道裂孔ヘルニア,消化管通過障害(胃排出遅延,十二指腸・空腸の通過障害),ダン2〜7).慢性機能性便秘症の定義は健常児と同様だが,重症児の場合ピング様症状などが問題となるは自覚症状を訴えられないことや,これら多岐にわたる機能障害と複合的に関連することが特殊である.適切な排便管理が確立できないと,嘔吐や緊張やけいれん発作を誘発し,抗てんかん発作薬や鎮静薬の増量,誤嚥性肺炎,栄養障害,麻痺性イレウスや巨大結腸直腸や腸管捻転など合併症や器質的疾患につながることを理解する必要がある.重症児の機能性便秘症の要因の 1 つとして,空気嚥下症〔Rome IV 診断基準の機能性消化管疾患2〜7)は重要である.重症児が空気を嚥下する要因は,精神的・心理的な習慣性の行動と,(FGIDs)〕物理的に上気道閉塞状態(過度の緊張や側彎症の進行に伴い,頸部が過度に持続的に後屈位となる・常時開口し下顎が落ち込むなど)による呼吸困難や,嚥下機能低下に伴う呼吸困難,先天性神経疾患の症状などがあげられる.重症児の空気嚥下はコントロールすることはできず,長期的持続的に消化管が過膨張状態となることで腸管壁の過伸展から蠕動能力が低下し排便困難となる.図10-1 に,典型的な空気嚥下症に伴う排便困難症例の腹部 X 線検査と注腸造影検査の画像を提示する.提示例は胃瘻がない症例だが,胃瘻があっても胃からの脱気効果は限定的で同様の状態に陥る.排便も排ガスもままならず,毎日の浣腸や定期的な洗腸により経肛門的に腸管の減圧を継続的に実施することで,徐々に腸管蠕動を回復させることはできるが,巨大結腸が永続化する場合もある.腸管ガス排泄が妨げられれば,過度の腹部膨満が栄養摂取困難(水分栄養摂取量低下に伴う硬便化も生じる)と横隔膜挙上による呼吸障害を助長し,空気嚥下症と排便困難は悪循環に陥る.消化管の過度の緊満や蠕動低下は消化管穿孔や盲腸捻転や S 状結腸捻転など器質的疾患も発症しうるなお,排泄障害としては,機能性便秘症以外にダンピング様症状もよく問題となるによる両者の鑑別は意外と難しい.重症児は,便秘症だからといって硬便とは限らず,ダンピング様症状だからといって頻回便とは限らない.どちらの場合でも悪心や蠕動痛や不快感から過度の緊張やけいれん発作を誘発し,体調不良につながる.特に胃瘻造設後の側彎症進行症例では,胃の偏位と体幹の変形が胃瘻位置を移動させ幽門近くに栄養が注入される場合があり,慢性機能性便秘症の鑑別診断の 1 つとして留意するべきである.2, 3, 5, 6)ので,徹底した排便管理が必要となる.2, 5, 8)が,症状基本的事項159

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