2730産科麻酔化学
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実際に早産期の胎児への局所麻酔薬の影響は存在するのか リドカインの影響前述のような胎児の生理学的特徴によって,産科麻酔に用いる麻酔薬の影響も妊娠正期の胎児とは大きく異なることが推測され,様々な研究が行われた.早産期のヒツジにリドカインを用いた研究では,興味深いことに,けいれんを起こす薬液量はむしろ早産期のほうが妊娠正期よりも高用量であり,心血管系の変動には有意な差を認めないと報告されている 5).また,早産期と妊娠正期のヒツジに血漿濃度が2μg/mLになるようにリドカインを静脈内投与しても,胎児の心拍出量,臓器血流,血液ガスおよび酸塩基平衡に悪影響を与えない.しかし,早産期の臨床で問題となるのは,分娩経過中に何らかのストレスがかかった状況であることが多い.そのため,森島らは,早産期のヒツジの臍帯の一部を閉塞させてストレス条件を再現し,局所麻酔薬の影響について検討した 6).その結果,臍帯を閉塞させると低酸素に対する典型的な代償反応,すなわち胎児心拍数の低下と脳,心臓,副腎への血流の増加が生じるが,リドカインを母体に投与すると,動脈血二酸化炭素分圧が有意に上昇し,pH,平均動脈圧,脳,心筋,副腎への血流が減少することを証明した.森島らは,正期産のヒツジはリドカインを投与しても低酸素時の代償反応は正常に維持されるのに比較し,早産期のヒツジは母体から経胎盤的にリドカインに曝露すると,低酸素に対する心血管系の代償反応を失うと結論づけた.ブピバカインの影響ブピバカインの影響を調べた研究では,リドカイン同様,低酸素条件下の早産児のヒツジの重要臓器への代償性血流増加を消失させた 7).しかしリドカインの研究とは対照的に,胎児の心拍数,血圧,酸塩基平衡には影響を与えないことがわかった.妊娠中期のヒツジでロピバカインの影響を調査した研究でも同様に,胎児の心拍数,血圧,子宮血流,酸塩基平衡に悪影響を認めなかったと報告された 8).早産期に分娩時鎮痛(無痛分娩)は可能か 早産期の脊髄幹鎮痛をどう解釈するか現在主流となっているロピバカインやレボブピバカインによる分娩時鎮痛は,早産期の胎児に対しても比較的安全に使用できる.したがって,早産期を理由に脊髄幹鎮痛を避ける必要はない.分娩時鎮痛そのものの好影響として,分娩経過中の母体カテコラミン濃度の上昇を抑え,子宮胎盤血流を改善する事実 9)とあわせれば,むしろ適応となる状況もあるかもしれない.しかし,児の未熟性や,早産期に分娩に至る病態(例:子宮内感染など)が存在するため,早産期の脊髄幹鎮痛は母体の低血圧など子宮胎盤血流を減少させる状況を最大限避け,胎児心拍数モニタリングの厳格な管理を行う限りにおいて実施可能である,と考えるのが望ましいだろう.1216 早産―麻酔科医の立場から    275第9章産科的合併症の麻酔管理

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