28メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は,世界中の病院における主要な医療関連病原体である.この病原体は術後創部感染,院内肺炎,カテーテル関連感染症などを発生させ,入院期間の延長や死亡率の増加とも関連することが報告されている 1).MRSAを含む黄色ブドウ球菌のコントロールは,伝統的に患者間または患者と医療従事者間の交差感染予防に焦点が当てられてきた.しかし,黄色ブドウ球菌による医療関連感染の多くは患者自身の保菌から内因性に発生することが知られるようになり 2, 3),その対策として鼻腔内除菌(decolonization)が実施されるようになった.2018年の世界保健機関(WHO)の「手術部位感染予防のためのグローバルガイドライン 第2版」では,人工関節手術や心・胸部手術患者が黄色ブドウ球菌を保菌している場合には,ムピロシン軟膏などで鼻腔内除菌(decolonization)を行うべきことが強く推奨されている 4).また,ほかの手術領域に対しても条件つきで鼻腔内除菌が推奨されている.そこで,本BQでは,消化器外科手術領域における鼻腔MRSA保菌のSSI発生への寄与を検証するため,システマティックレビュー(SR)およびメタアナリシスを行った.PubMed,医中誌およびハンドサーチを用いて検索を行った結果,最終的に前向きコホート研究8報 5-12),後ろ向きコホート研究12報 13-24)を抽出した.このうち,消化器外科手術のみを対象としていた研究はRamirezら 18)の1報のみであり,手術領域として大腸手術が47.9%,小腸18.5%,胃17.8%,膵臓7.3%,肝胆道5.8%,食道2.7%であった.また,消化器外科手術を含む研究が6報 11, 14-17, 20)あり,そのうち消化器外科手術患者の割合が明らかであったのは2報(それぞれ29.8% 17)および84.9% 20)),割合が不明であったのは4報 11, 14-16)であった.さらに,ほかの研究は整形外科手術のみの7報 6, 9, 13, 19, 22-24),心臓外科手術のみの3報 8, 12, 21),脳神経外科手術のみの1報 10),泌尿器外科手術のみの1報 5),経皮内視鏡的胃瘻造設術のみの1報 7)が抽出された.なお,アウトカムとしては各研究で共通していたMRSAを原因とするSSI発生率ならびに全SSI発生率を評価した.結果として,まずは消化器外科手術患者を含む研究5報 14, 15, 17, 18, 20)において,術前の鼻腔MRSA保菌者では非保菌者と比べてMRSAを原因とするSSI発生率が有意に上昇した.また,消化器外科領域以外を対象とした研究9報 5, 6, 9, 10, 12, 13, 19, 21, 23)ならびに全研究14報の統合解析においても,術前の鼻腔MRSA保菌者ではMRSAを原因とするSSI発生率が有意に上昇した.全SSI発生率を評価したメタアナリシスにおいては,消化器外科手術患者を含む研究4報 11, 15, 16, 18)では統計学的な有意差は認めないものの,MRSA保菌者では全SSI発生率解 説術前の鼻腔MRSA保菌者は非保菌者に比較してSSI発生率が高いか?術前の鼻腔MRSA保菌者は非保菌者と比較して,消化器外科領域を含む多くの手術領域においてSSI発生率が有意に高くなる(低).ステートメント別添資料BQ2-2BQ2-2
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