84周術期口腔機能管理(口腔ケア)による口腔内dysbiosisの改善が,術後の感染性合併症に対して予防効果を示すことを期待して,わが国では2012年から周術期における口腔ケアが保険適用となった.しかしながら,当時のエビデンスの確実性は極めて低い状態であり,高齢者施設における肺炎予防 1)や人工呼吸器関連肺炎の予防に関する報告 2, 3)が散見されるものの,手術部位感染(SSI)の予防に関しては口腔外科領域の報告 4)に限られていた.また,口腔から離れた部位のSSIに対する口腔ケアの予防効果は疑問視されていた.その後も新たな報告は少なく,2018年版では,口腔ケアによるSSI予防の有用性に関する推奨度は,報告の少なさとエビデンスの確実性の低さから評価困難(エビデンスレベルD)であった.その後,口腔ケアによるSSI予防の報告が漸増したため,本ガイドラインでは消化器外科手術における口腔ケアのSSI予防としての有用性について,システマティックレビュー(SR)とメタアナリシスを行った.消化器外科手術を対象とした報告,および消化器外科以外を含む報告のなかから消化器外科手術の正確なデータが把握できた報告を検索対象とし,口腔ケアによるSSI予防を検討した4報の観察研究(OBS) 5-8),術後肺炎予防を検討した9報のOBS 7-15),および入院日数の短縮効果を検討した2報のOBS 6, 7)を抽出した.なお,ランダム化比較試験(RCT)は見当たらなかった.口腔ケアの内容として,歯科医師あるいは歯科衛生士による専門的口腔ケアが実施された報告,ブラッシング指導などの口腔衛生指導が実施された報告を対象とし,クロルヘキシジンなどによる含嗽指示のみの報告は対象としなかった.SSI予防に関する報告は,胃がん,膵がん,肝がん,大腸がんが1報ずつであり,術後肺炎予防は食道がんが6報で最も多く,そのほかは,胃がん,膵がん,消化器全般であった.また,入院日数の検討は膵がんと大腸がんが1報ずつであった.これらのOBSに関して解析を行った結果,SSIと術後肺炎は,いずれも口腔ケア群で発生率が有意に低かった.一方,入院日数は有意差を示さなかった(表CQ3-10-1).なお,消化器外科手術以外の手術も対象にして30日死亡率が検討された報告 16)では,リスク差(risk difference:RD):−0.12%〔95%信頼区間(CI):−0.12-−0.07,P<0.001〕解 説周術期口腔機能管理(口腔ケア)はSSI予防に有用か?周術期口腔機能管理(口腔ケア)は,消化器外科手術後のSSI予防効果および肺炎予防効果が示されており,行うことを提案する.弱い推奨 エビデンスの確実性:低投票結果 行うことを提案する:17/20名(85%),行うことを推奨する:2/20名(10%),行わないことを提案する:1/20名(5%)推 奨別添資料CQ3-10CQ3-10
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