2 寺内公一 「女性医学」「女性医療」「女性ヘルスケア」という言葉がわが国で広く認知されるようになる前,この分野の原点は「更年期」にあった.エストロジェンが大きくゆらぎながら減少していく過程で現れる様々な症状,あるいは長期にわたるエストロジェン欠乏が原因となる様々な疾患の病態解明と治療を分野の中心的課題とし,その対応に際しては心身医学的な視点をもつことが必要と考えられた.やがてこのような病態把握と診療方針は更年期・老年期のみならず女性のライフステージ全般に拡張されるべきものだと考えられるようになって,日本更年期医学会は日本女性医学学会に改称され(2011 年),女性ヘルスケア専門医制度が創設され(2013年),女性ヘルスケアは産婦人科学のサブスペシャルティとして認定され(2014年),そして日本女性医学学会は日本医学会に加盟した(2020 年).このように一定の社会的承認を獲得した「女性医学」「女性医療」「女性ヘルスケア」とは,改めてどのように定義されるべきものだろうか?その本質はいったいどこに存在するのだろうか? 編者なりの答えは以下のようなものである.産婦人科学におけるその他の分野,すなわち「生殖」「周産期」「婦人科腫瘍」が専門領域をより高度に収束させていく一方で,第 4 のサブスペシャルティである「女性ヘルスケア」はそこから取り残された多様な領域を受容・包摂し,産婦人科領域における「generalist という名のspecialist」を育成する専門領域として発散していくことを期待されているのではないか.そしてその本質は,心身医学的視点を持ちつつ女性のライフステージ全般にわたる予防医学的なプライマリケアを実践する外来診療(office gynecology)にあるのではないか. 本書「こころとからだの“つらい”に寄り添う女性外来診療」は,まさにそのような編者の思いに沿った書籍である.本領域における数多くのエクスパートのご協力を得て,「思春期」「性成熟期」「更年期・老年期」というライフステージ全般にわたり心身医学的視点を取り入れた女性外来診療の「教科書」とも言える一冊がここに完成した.「女性医療」の実務に日々邁進される日本全国の先生方に本書がお役に立てば,編者にとってこの上ない喜びである.東京科学大学大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座[ は じ め に ]
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