性感染症による尿道炎は,淋菌(Neisseria gonorrhoeae:N.gonorrhoeae,以下淋菌)関与の有無により淋菌性と非淋菌性に分類され,非淋菌性尿道炎(non‒gonococcal urethritis:NGU)の主要な原因菌としてはクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis:C. trachomatis)と,マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium:M. genitalium),腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis:T. vagina-lis)が認知されている1).古くからグラム(Gram)染色鏡検により淋菌の有無を治療開始時に迅速に診断できたのに対し,C. trachomatis など淋菌以外の原因微生物を診断することは困難であった.しかし,尿道炎患者に対してまず淋菌性/非淋菌性尿道炎を鑑別することの意義は,現在においても非常に大きいといえる.その第一の理由として,淋菌はその薬剤耐性により NGU の主要な原因菌とは治療薬が大きく異なるため,治療開始時に両者を鑑別し適切な治療をはじめることが重要だからである.第二に,NGU の主要な原因菌である C. trachomatis の迅速核酸増幅法検査(nucleic acid ampli-fication test:NAAT)が保険適用となったが,いまだ臨床現場には普及しておらず,M. genitalium などのクラミジア以外の原因微生物の迅速検査法はない.そのため,NGU と診断してもその時点で原因微生物を特定してその治療を開始することができず,多彩な原因微生物を含む疾患単位である「非淋菌性尿道炎」として治療を開始せざるを得ない,という点があげられる.以上の臨床的重要性から,今回の本ガイドライン改訂に際し,「性器クラミジア感染症(男性)」と「マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症」に加えて「非淋菌性尿道炎」を新設した. NGU の代表的な原因微生物として,C. trachomatis と M. genitalium を想定する.両者は病歴や臨床症状で鑑別することは不可能であり,通常は培養が困難であることから,拡酸増幅検査で確定診断を行う.両者で最も異なるのは薬剤感受性であり,安定して多くの抗菌薬が有効な C. trachoma-tis2,3)と,薬剤耐性化が進行している M. genitalium4~6)で,有効な抗菌薬が大きく変わりつつあるのが現状である.本項では,初診時に病原微生物の鑑別ができない NGU に対し,実施すべき検査や初診時に処方すべき抗菌薬などについて述べる.なお,各病原微生物による尿道炎の詳細は各項に譲るが,NGU として治療を開始したのちに病原微生物が判明するという疾患特異性から,本項は各病原微生物の項につながるよう記載した.89第 2 部 疾患別診断と治療BQ01 非淋菌性尿道炎の鑑別と実施すべき検査は?BQ02 非淋菌性尿道炎の初期治療は?BQ03 非淋菌性尿道炎の再診時の対応は?非淋菌性尿道炎03
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