2741高血圧診療ステップアップ 改訂第2版
2/8

高血圧診療ステップアップ―改訂第2版―序文高血圧は,わが国において最も有病率の高い疾患のひとつであり,その患者数は4,300万人と推定されています.毎年,脳卒中,心不全,心筋梗塞,腎不全などの高血圧関連疾患によって,17万人が命を失っています.その背景には,健診システムも整備され,安全で有効な降圧薬が開発され,高血圧診療ガイドラインによるエビデンスに基づく医療が提示されているにも関わらず,良好な降圧が達成されている血圧管理率は27%に留まり,国際的にも最低水準であるという深刻な現状hypertension paradoxがあります.世界に先駆けて未曾有の超高齢社会を迎えるわが国において,高血圧管理の改善は,健康長寿社会を実現するための喫緊の課題と思われます.2025年8月に日本高血圧学会より「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」が発表されました.和名には「管理」が,英文には「Elevated Blood Pressure」が新たに明記され,高血圧治療のみならず,高血圧予防と脳心血管イベント抑制のためにすべての国民の血圧管理を重視することが強調されました.JSH2025では,血圧管理・治療のためのシンプルかつ具体的な方策が示されています.最大のポイントは,従来のように有害事象の高リスク群にあらかじめ緩やかな降圧目標を設定するのではなく,年齢・病態・合併症にかかわらず全ての高血圧の降圧目標を130/80mmHg未満と定めた点です.同時に,あらゆる患者において診察ごとに,併存疾患・病態の個別リスクやその時々の状態・病態を注意深く評価し,有害事象を避けつつ柔軟に対応し,降圧目標を達成することが強調されています.すなわち,目標達成のためのプロセスを重視する個別化治療へのパラダイムシフトが提唱されました.さらに,コントロール不良な高血圧・治療抵抗性高血圧に対する対策も重視されています.本書「高血圧診療ステップアップ―改訂第2版―」は,JSH2019発表にあわせて刊行された「高血圧診療ステップアップ―高血圧治療ガイドラインを極める―」の改訂版です.高血圧専門医ならびに専門医を志す医師に限らず,JSH2025を深掘りし,高血圧診療のステップアップを図りたい全ての医師に向けたテキストです.JSH2025には盛り込めなかった病態生理やエビデンスについても詳述してあります.また,2025年から,高血圧学会認定高血圧専門医の受験資格が,実地医家を含め総合内科専門医や内科認定医を有する医師に広く開放されました.本書が,専門医を目指す契機となれば幸いです.そして,高血圧専門医,専門医をめざす医師の自己研鑽に加えて,幅広い医師の日常診療に役立てていただき,hypertension paradoxの克服の一助となることを祈念しています.2025年10月特定非営利活動法人 日本高血圧学会 理事長苅尾七臣特定非営利活動法人 日本高血圧学会 専門医制度委員会 副委員長高血圧診療ステップアップ作成委員会 委員長甲斐久史2

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る