初版の序2019年は新しい時代 「令和」の始まりです.また,「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(脳卒中・循環器病対策基本法)が施行され,「脳卒中・循環器予防元年」でもあります.高血圧は,わが国の患者数が4,200万人とも推定されており,脳卒中,心筋梗塞や心不全,腎不全などの脳心血管病の最も重大な危険因子の一つです.したがって,高血圧の予防と治療が脳卒中・循環器病の一次予防・二次予防の最重要課題です.日本高血圧学会は,高血圧の標準的な診療方法を示す「高血圧治療ガイドライン」を2000年以来,約5年ごとに改訂していますが,2019年4月に第5版「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」が公表されました.JSH2019では,(1)わが国における血圧値以外の脳心血管病のリスクを評価して,血圧値とあわせて高血圧治療の道筋を決定する,(2)降圧療法の脳心血管病の発症と再発を予防するための降圧目標の再評価が行われ,独自のシステマティックレビュー・メタ解析を含めて,新たなエビデンスが蓄積したことにより,多くの病態や疾患での降圧目標を引き下げる,(3)降圧療法の進歩にもかかわらず治療中の患者において(JSH2014の)降圧目標に達成している割合は50%程度にすぎない“Hypertension Par-adox”を解消するためには,医師自身のclinical inertia(臨床イナーシャ)の克服や多職種協働による非薬物療法が重要となることなどが謳われています.また,2008年(平成20年)に高血圧学会が専門医制度の運用を開始し約10年が経過し,すでに日本高血圧学会認定専門医は700名を越えています.高血圧専門医の役割は,(1)一般,総合医,および循環器・腎臓・内分泌内科・脳卒中などの特定領域の専門医では難渋する治療抵抗性高血圧について,多領域方面の知識と経験から,その成因と病態を明らかにし治療にあたる,(2)高血圧の約10%を占める二次性高血圧を適切に診断・治療する,(3)今後実用化が期待される腎交感神経デナベーションなどの高血圧のデバイス治療にあたり,適切な治療適応の検討と管理を行う,(4)本人が気づいていない高血圧の認知,高血圧の発症や予防に向けた教育・啓発活動,さらに国民全体に血圧値を下げるための政策提言や情報発信などを通じて,脳心血管病の抑制,健康状態の向上を図ることにより,国民の福祉に貢献することです.脳卒中・循環器病対策基本法が制定された今,脳心血管病の予防と治療における高血圧専門医の重要性はますます高まっています.本書「高血圧診療ステップアップ―高血圧治療ガイドラインを極める―」は,JSH2009発表にあわせて初版が出版され,その後第3版まで出版された「高血圧専門医ガイドブック」をさらに発展させたものです.高血圧専門医ならびに専門医をめざす医師のみならず,JSH2019をより深く理解し,さらなる高血圧診療のステップアップをはかりたい医師を対象にした教科書です.ガイドラインには十分記載できなかった病態や治療についてもくわしく述べてあります.高血圧専門医,専門医をめざす医師の自己研鑽に加えて,幅広い医師の高血圧診療に役立てていただくことを祈念しています.2019年5月特定非営利活動法人 日本高血圧学会 理事長伊藤 裕特定非営利活動法人 日本高血圧学会 専門医制度委員会 委員長高血圧診療ステップアップ作成委員会 委員長甲斐久史3
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