2741高血圧診療ステップアップ 改訂第2版
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1 臨床検査はどこまで信頼できるか?診断における信頼度からすると,p.53「III.高血圧の診察」で述べた身体所見による診察は医師の力量にかかわる部分があるため,検体検査のほうが信頼度が高いと思われがちである.信頼度は図1に示すような計算方法でκ統計値を算出し,この値が1.0に近いと信頼度が高いとされる.実際これらを各種身体所見や検査で比べてみると,たとえば心雑音のLevineの分類が0.43〜0.60 1),収縮期血圧160mmHg未満では0.75 2)であるのに対し,胸部X線での心肥大が0.48 3),digital subtraction an-giography(DSA)による腎動脈狭窄が0.65 4)であり,大きな差はない.また,内分泌専門医に甲状腺機能データとその他の臨床検査値を見せて最終判断を下させたところ,40%が不一致であったとの報告もある 5).このように臨床検査であっても,その検査結果の有意性を判断する過程があるため完全一致はしない.さらに,検体検査においては検体採取の方法(採血のやり方),タイミング,検体取扱い方法により測定値に誤差が生じる.各々の誤差は小さくても,積み重なると大きな誤差となり得るので注意が必要である.例えば性別による差,年齢による差,食事の影響,日内変動のほかにも,検体取扱い時に生じる異常として溶血でカリウム(K)が高くなること,尿蛋白は試験紙法ではアルカリ尿,逆性石けんの混入などで偽陽性となることは高血圧患者の診療において留意すべき点であろう.正しく測定された検査データを臨床的に判断する際に留意する点として,基準範囲と異常値の問題がある.すべての生体情報は個人間でばらつきがある.そこで,基準範囲と異常値は健常者に生理的に認められる変動幅から設定され,母集団によって変わる.基準範囲は測定施設独自に設定するため,測定施設ごとに異なる.一方,臨床判断のためには,症例対照研究により設定される診断閾値(カットオフ値),疫学的調査研究により設定される予防医学的閾値,および経験則,症例集積研究から決められる治療閾値を設定する必要がある.診断閾値として,“高血圧”と定義する血圧値を定めている.予IV.臨床検査一般必須検査SECTIONAABSTRACT ○臨床検査の限界を理解し,検査値の評価を行う. ○臓器障害の評価,二次性高血圧の診断のために適正な検査を選び,適正な時期に繰り返し評価を行う. ○検査を行う場合には保険診療の範囲にも留意する.医師A徴候(+)徴候(−)医師B徴候(+)ac徴候(−)bd図1 検査の信頼度観察一致率PO=a+da+b+c+d,偶然一致率PE医師Aは(a+b)/(a+b+c+d)の比率で徴候ありとした.医師Bが徴候ありとしたa+c人の患者のうち,医師Aが偶然に徴候ありとする人数は(a+c)×(a+b)/(a+b+c+d)人となる.この人数は医師A,Bの判断結果が偶然に一致する人数になるので,一致率はこの人数をサンプル全数の(a+b+c+d)で割った比率になる.すなわち,(a+c)×(a+b)/(a+b+c+d) 2 となる.同様に徴候なしと偶然2人が判断する確率は(c+d)×(b+d)/(a+b+c+d) 2となる.これらの和を偶然一致率とする.κ統計値=PO−PE1−PE60

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