防医学的閾値は血圧値では診断閾値と同義に扱われることが多いが,特定健診の血糖,LDLコレステロール(LDL-C)値が予防医学的閾値に該当する.一方,治療閾値としては,降圧目標値,すぐに是正する血糖値などが該当する.JSH2025でもこれらの設定値を記載しているが,診断閾値については,本来ならば対象疾患の有病率と偽陰性,偽陽性の過誤によって生じる医療コストを勘案して決める必要がある.二次性高血圧鑑別のための検査値も,内分泌専門外来では有病率が高いので偽陰性が減るように閾値を低めに設定するが,有病率が低い一般外来では閾値は高めに設定し,偽陽性を少なくする.検査計画を立てるために必要なエビデンスのとらえ方はp.53「III.高血圧の診察」を参考にしてもらいたい.本項目ではこのような検査に対する認識を共有したうえで,高血圧患者の病態把握,臓器障害評価,治療効果判定のための一般検査について解説する.2 尿,血液検査a 尿検査まず試験紙法による尿定性試験を行う.腎実質性高血圧症の鑑別のみならず,腎障害の評価にも用いることができる.尿蛋白は慢性腎臓病(CKD)の診断基準にあるほかにも,末期腎不全や心血管病の危険因子として重要であり,また,高血圧治療の評価項目として蛋白尿を減少させることがあげられている.尿蛋白は定性反応で評価する.蛋白+/-は概ね15mg/dL,1+は30mg/dL,2+は100mg/dLに相当する.糖尿病性腎症を疑う場合はアルブミンを随時尿で定量し,より細かな管理を行う.高血圧患者では尿中アルブミンの測定は保険適用上認められていないが,最近は試験紙法でクレアチニン(Cr)補正が可能な試験紙も販売されており,尿定性試験として半定量することが可能である.蛋白尿は一過性のものも多く,持続性に認められるものに意義があるので,複数回の検尿が必要である.一過性蛋白尿は過激な運動,発熱,ストレスなどによって引き起こされる.また,随時尿では蛋白陽性でも,早朝第一尿が陰性の持続性蛋白尿では,体位性蛋白尿の疑いがある.遊走腎が認められない場合は軽度の糸球体腎炎の可能性を考え,経過観察を行う.蛋白尿の原因鑑別には血中の異常蛋白の漏出による腎前性,腎性,腎盂以下の尿路病変による腎後性の区分がわかりやすい.高血圧症と関連するものとしては心不全や甲状腺機能亢進症による腎前性蛋白尿,腎実質の障害による腎性がある.最も多く認められるものは腎性蛋白尿であり,尿沈渣での円柱や糸球体型赤血球の所見は腎実質性の障害を示唆する.腎性蛋白尿は糸球体由来のものと尿細管由来のものを鑑別する.糸球体性では糸球体基底膜の蛋白漏出によりアルブミンから分子量の大きい免疫グロブリンといった蛋白まで尿中に出ることがある.尿細管性で,尿細管での蛋白の再吸収障害によって生じるβ2ミクログロブリン,N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)といった低分子量蛋白が主で,その原因として尿細管壊死や間質性腎炎のほかに,高血圧患者では薬剤性高血圧症の原因である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やシクロスポリンによって生じるものを念頭におく.蛋白尿の経過観察は軽度蛋白尿であれば1〜3か月ごとに尿沈渣,蛋白尿の定量と3〜6か月に一度,推算糸球体濾過量(eGFR)の算出を行う.中等度以上であれば,さらに頻回に行う.尿細管障害のマーカーである尿中NAGを月2回以上測定する際は,保険診療上,症状・経過の説明が求められる.潜血反応の判断には必ず沈渣法を併用し,顕微鏡的血尿かどうか確認する.潜血反応陽性で沈渣の赤血球が陰性の場合は,低張尿,細菌尿,アルカリ尿,まれな例としてミオグロビン尿やヘモグロビン尿を疑う.一方,沈渣で赤血球が認められるにもかかわらず潜血反応が陰性の場合は顕微鏡的血尿として扱い,アスコルビン酸の摂取や試験紙の劣化を疑う.高血圧罹患歴が短いにもかかわらず顕微鏡的血尿を認める場合には囊胞腎を疑う.尿糖は一般に血糖180mg/dL以上で認められ,クッシング症候群などの高血糖を呈する二次性高血圧を疑うきっかけとなる.b 血球検査高血圧発症と貧血の関連で留意するのは腎性貧血である.高血圧患者で貧血の場合は腎機能の確認と61SECTION A.一般必須検査
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