思春期発来の生理思春期発来の機序に再活発化すると,下垂体前葉からゴナドトロピン分泌が増え,卵巣内の卵胞が発育し,エストロゲン分泌が始まり,思春期が到来する.GnRH 分泌再活発化の機序は未解明であるが,遺伝子による制御と人種,栄養,生活条件などの相互作用の影響を受けている. 思春期とは,第 2 次性徴の出現に始まり,初経(menarche)を経て第 2 次性徴が完了し,月経周期がほぼ順調になるまでの期間をいう.わが国では 8~9 歳ごろから 17~18 歳ごろまでとされる.第 2 次性徴だけを狭義に捉えると 8~9 歳ごろから発現し始め 3~4 年以内に完了する.この時期を終えることにより生殖能力を獲得する. 卵巣からのエストロゲン分泌の増加(gonadarche)が開始すると乳房発育(thelarche)がみられる.通常 9~11 歳で発育を開始する.女子では乳房の発育がみられるころからすでに身長増加のスパートが開始している.陰毛の発育(pubarche)は卵巣由来のエストロゲンと副腎由来のアンドロゲンとの相乗作用による.副腎アンドロゲンの産生(adrenarche)は 6~8 歳ころから増加し,陰毛はこれより数年遅れて発育を始める.性ステロイドホルモンの産生増加により成長ホルモン(growth hormone:GH)の夜間分泌が増加し,インスリン様成長因子 1(insulin‒like growth factor 1:IGF‒1)などの種々の介在因子を経て骨格が成長する.乳房発育,陰毛発育,発育スパートに続き,日本人女性では平均 12~13 歳で初経を迎える. ヒトでは視床下部‒下垂体‒卵巣系は妊娠中期の胎児では活発であるが,妊娠後期に向けて次第に静止し,出生時に再活性化してゴナドトロピン濃度が上昇する.ゴナドトロピン濃度は生後 6 か月までに漸減するが,女児では FSH が高いまま 3~4 歳まで保たれ,卵胞が反応してエストラジオール(estradiol:E2)を分泌する.この現象が,生殖年齢期に達したときの下垂体の GnRH に対するゴナドトロピンの反応の基礎を築くと考えられている1). 女児では 3~4 歳で GnRH 分泌の抑制が起こり,小児期を通して持続する.ヒトでは性ステロイドホルモンによるフィードバックがない場合でも思春期到達前の GnRH 分泌抑制が起こるが,これは GnRH ニューロンの未熟性によるものではなく,神経的に規定された機能停止であると考えられている2).こののち,GnRH の律動的な分泌が増加し思春期を迎える.この GnRH の分泌開始機序はいまだ明らかになっていない. キスペプチン(kisspeptin:KISS1)は KISS1 遺伝子産物である.KISS1 は 1996 年 J. H. Lee2Chapter 1 思春期CQ1思春期発来のメカニズムは?A GnRH 分泌は乳幼児期に活発で小児期を通して抑制される.その分泌が律動的
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