2746女性内分泌クリニカルクエスチョン100 改訂第2版
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思春期13キスペプチン(KISS1)を取り巻く因子CQ1 思春期発来のメカニズムは?らにより黒色腫細胞株から相補的 DNA(complementary DNA:cDNA)が作成され,転移を抑制する遺伝子として発見された.研究者たちが所属するペンシルベニア州立大学のある同州の,ハーシーに本社を置くチョコレート会社の円錐形キスチョコにちなんで名づけられたという.5 年後,相手がみつかっていなかった G 蛋白共役型受容体 GRP54 のリガンドが KISS1 であることが同定された.GRP54 は現在,KISS1 受容体(KISS1 receptor:KISS1R)と呼ばれる.ヒト 1 番染色体長腕に位置する KISS1 遺伝子は,キスペプチンニューロンにおいてプレプロキスペプチンを生成し,酵素により切断されてキスペプチン‒54(kiss-peptin‒54:KP‒54),KP‒14,KP‒13,KP‒10 という 4 つの生理活性を有するペプチドが産生される.これらは KISS1R に結合して活性化するが,ヒトでは KP‒54 が主産物であるとされている. 2003 年に低ゴナドトロピン性性線機能低下症の家族における KISS1R 変異を示す 2 つの報告3,4)が,KISS1 と生殖内分泌学との関連性を確立した. キスペプチンニューロンは GnRH ニューロンの上位に位置する.思春期に増加(その機序も未解明)した KISS1 が GnRH ニューロンの KISS1R との結合を介して GnRH の律動的分泌を促進する結果,下垂体前葉からのゴナドトロピン分泌が亢進して思春期が発来すると推測されている. 視床下部内のキスペプチンニューロンの存在部位は種特異性があり,げっ歯類では前腹側室周囲核と視床下部弓状核に局在している.ヒトでは視索前野と漏斗核に局在している(図 1).キスペプチンニューロンにはエストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)αが存在し,げっ歯類ではエストロゲンの負のフィードバックは弓状核の,正のフィードバックは前腹側室周囲核のキスペプチンニューロンに作用し,前腹側室周囲核のニューロンがGnRH サージを起こすとされる.ヒトにおける GnRH サージの発現機序は解明されていない. MKRN3 は GnRH 分泌を阻害する作用を有し,中枢性早発思春期に関連する遺伝子欠損として報告されている.インプリンティングによる遺伝子の制御を受けており,思春期開始時の GnRH 分泌活性化の制御における役割が検討されている. 漏斗核のキスペプチンニューロンは,ニューロキニン B(neurokinin B:NKB)とダイノルフィンも産生しており,kisspeptin/neurokinin B/dynorphin(KNDy)ニューロンとも呼ばれる5).オートクラインまたはパラクライン制御の可能性を示し,KNDy ニューロンが視床下部 GnRH パルス発生器と考えられている.NKB および NKB の受容体をそれぞれコードする遺伝子変異の症例を通して,NKB も思春期発来に関与していると考えられている. 視床下部‒下垂体‒卵巣系の適切な機能は代謝や栄養因子によっても制御され,思春期の開始年齢は,人種,栄養,そのほかの生活条件などの相互作用により影響を受けている.レプチン,インスリン,グレリン,メラトニンなどの関与が報告されている.米国および欧州の一部の国で 19 世紀半ばから 20 世紀半ばにかけて,平均初経年齢が低下したことが示されているが,この変化はこの期間中の健康・栄養状態の改善などに起因するものとされている.Chapter

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