2746女性内分泌クリニカルクエスチョン100 改訂第2版
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遅発思春期の概要遅発思春期治療の目的が発来し正常な発育経過をたどったときに初めて,遅発思春期といえるのである.結果として遅発思春期であったとしても,エストロゲンが必要な時期に不足することにより全身への影響が起きうるので,その時期に至適濃度のエストロゲンを補充する必要がある. 英国の小児内分泌学者 Tanner と,同僚の Marshall により提唱された思春期の発達段階(Tanner 分類)の導入により,臨床的な検討が標準化され国際比較等も可能になった. 明確な定義はないが,日本産科婦人科学会では乳房発育が 11 歳まで,陰毛発育が 13 歳まで,初経が 14 歳までにみられないものを遅発思春期としている.現在は 15 歳をすぎても月経が発来していない場合を「初経遅延」とし,その後月経が発来すれば「遅発初経」,18 歳になっても月経が発来しない場合を「原発性無月経」としている. 生理的な範囲内で思春期の発来が遅れている体質的なものが 10~20% あり,それらは正常な思春期発達の過程をとり,ゴナドトロピンレベルも正常範囲内やや低め程度である.その多くは対応を必要とせず経過観察でよい. 問題は,15 歳になっても月経が発来していない女子を目前にしたとき,原発性無月経の可能性を否定できないことである. 原発性無月経をきたしうる病態の検査(身体所見,脳の画像検査,子宮と卵巣の画像検査,内分泌検査,染色体検査等)を行い,遅発初経の可能性を考える,というのが現実的な対応であろう. 遅発思春期をきたす背景疾患が診断された場合には,個別の対応が必要である. しかしながら,遅発思春期治療の主たる目的は,エストロゲンが必要な時期に不足することによる,全身への影響の回避である(表 1)1).第 2 次性徴の発現と維持は体形だけではなく妊孕能の問題でもあるが,骨や動脈への影響,代謝異常への影響など,本人の生存やQOL における問題も考慮する必要がある.また,無月経であることの精神的な不安に対する対応という側面への配慮も必要である. さらにエストロゲン分泌はあるが無排卵でプロゲステロンの分泌を伴わない場合は,子宮内膜癌のリスクが生じうる.周期的なプロゲスチンの補充により消退出血を起こしておく必要がある.9Chapter 1 思春期CQ3遅発思春期の治療は必要か?A 遅発思春期と原発性無月経との鑑別は困難であり,あとから振り返って,月経

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