編著 小寺雅也独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院皮膚科 部長/同 膠原病リウマチセンター センター長iii 膠原病・リウマチ性疾患の診療は,いま「専門性の深化」と「臨床現場の複雑化」という 2つの潮流の交点にあります.疾患概念や分類は更新され,自己抗体・画像・病理の解像度は高まり,治療は分子標的薬や免疫調整薬の拡充によって選択肢が増えました.一方で,感染症対策,併存症管理,妊娠・出産,就労支援,高齢化に伴うフレイルへの配慮など,治療の周辺にみえる課題が診療の成否を左右する時代になっています.そうした状況で求められるのは,知識の羅列ではなく,診察室で「次に何をするか」を迷わず組み立てられる臨床のロードマップです.本書は,そのロードマップを読者の皆様に手渡すことを目的として編まれました. 本書の特徴は,視診・触診を軸に据え,総論と各論に分けたうえで,筆者が経験した診断・治療,患者指導・自己管理支援などの臨床上のコツを「Dr. 小寺の Clinical Insight」として提示し,疾患ごとの理解が最終的に実地の意思決定へ向かうように設計した点です.総論では,本書の構成とねらい,視診・触診の勘所,紹介のタイミング,疾患分類と自己抗体,そして診断プロセスを整理し,臨床推論の骨格を提示しました.続く各論では,全身性エリテマトーデス(SLE),全身性硬化症(SSc),皮膚筋炎/多発性筋炎(DM/PM),関節リウマチ(RA)など主要疾患を取り上げ,“何が本質か/どこで重症度を判定するか/どう治療方針を立てるか/最新知見は何か/患者指導と自己管理をどう支えるか”という共通の枠組みで横断的に学べるよう構成しました.「Dr. 小寺の Clinical Insight」では,患者さんの生活機能と将来を見据えた臨床判断の要点や注意点を提示しています.こうした構成により,個々の知識を断片的なものとして終わらせることなく,診療の流れのなかで位置づけて理解できるようにしました. なぜ今この本が必要か.第一に,膠原病・リウマチ性疾患は,初期には非特異的な症状や軽微な皮膚所見から始まりうる一方で,臓器障害が顕在化すると急速に重症化しうるため,早期の診療が予後を規定します.特に非専門医にとっては,皮膚所見を診療の入口として異常に気づき,「いま紹介すべきか,経過をみてよいか」を判断できるかどうかが,その後の転帰を大きく左右します.第二に,治療の進歩が「寛解・低疾患活動性」を現実的な目標へ変えた反面,免疫抑制下の感染症,合併症,薬剤安全性,ライフイベントへの配慮といった“総合力”が必須になりました.第三に,診療は単独の診療科で完結しにくく,適切な連携こそが患者さんの利益を最大化します.本書は,こうした現代の臨床課題に対し,日々の判断にそのまま使える形で整理することを目指しました. 本書は,専攻医・若手医師にとっては「体系だった足場」として,経験ある臨床家にとっては「知識と実践のアップデート」として役立つことを意図しています.リウマチ・膠原病診療の本質は,不確実性のなかで根拠を積み上げ,必要な評価を怠らず,患者さんと同じ方向を向いて治療を選び続けることです.本書が,読者の皆様の思考と実践をより確かなものとし,患者さんの時間と生活を守る一助となれば幸いです. 2026 年 3 月はじめに
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