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小児急性脳症診療ガイドライン2023診断と治療社 | 書籍詳細:小児急性脳症診療ガイドライン2023

日本小児神経学会 監修

小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ 編集

初版 B5判 並製 152頁 2023年01月01日発行

ISBN9784787825667

定価:3,630円(本体価格3,300円+税)
  

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6年ぶりとなる今回の改訂では,概念・疫学から診断・検査,管理・治療など,教科書としても使える急性脳症の総論・各論部分はMinds 2007に準拠した2016年版の内容をアップデートし,さらにMinds 2020に基づくシステマティックレビューから推奨文を作成したCQを新たに1つ追加.現時点での“日本の小児急性脳症研究の最大公約数的な到達点”として,小児急性脳症の診療にかかわるすべて医師,必携の書.

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目次

発刊にあたって
序文(2023)
序文(2016)

小児急性脳症診療ガイドライン2023の概要
急性脳症の診療フローチャートと本ガイドラインの使い方
小児急性脳症診療ガイドライン2023 作成組織
推奨度および推奨グレード一覧
略語一覧

第1章クリニカルクエスチョン
CQ1
体温管理療法(脳平温療法:目標体温36℃)を実施可能な施設において,急性脳症を疑う患児に対する本療法の実施はAESDへの進展,後遺症,重篤な有害事象を考慮した場合有用か?

第2章急性脳症の概念と疫学
1 急性脳症の定義
2 急性脳症の疫学
3 急性脳症の予後

第3章急性脳症の診断と検査
1 急性脳症の診断に必要な診察と検査,タイミング
2 急性脳症の鑑別診断
3 急性脳症の画像診断
4 急性脳症の脳波検査

第4章全身管理と体温管理療法(脳低温・平温療法)
1 けいれん性てんかん重積・けいれん性てんかん遷延状態への対応
2 急性脳症の全身管理
3 急性脳症全般に対する体温管理療法
(脳低温療法:目標体温32~35℃,脳平温療法:目標体温36℃)

第5章代謝異常による急性脳症
1 先天代謝異常症による急性脳症の特徴
2 先天代謝異常症の診断と検査
3 ミトコンドリア救済の治療

第6章全身性炎症反応による急性脳症
1 炎症のマーカー
2 副腎皮質ステロイドの意義,適応,方法
3 ガンマグロブリンと血液浄化の意義,適応,方法
4 急性壊死性脳症(ANE)の診断と治療

第7章けいれん重積を伴う急性脳症
1 けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の診断と治療
2 難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)の診断と治療

第8章その他の急性脳症
1 Dravet症候群に合併した脳症の診断と治療
2 先天性副腎皮質過形成に伴う脳症の診断と治療
3 可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(MERS)の診断と治療
4 腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に併発する脳症の診断と治療


索引

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序文

発刊にあたって

日本小児神経学会は小児神経疾患の診療標準化を目指しており,2011年にガイドライン統括委員会を発足させました.本学会ではこれまでに「熱性けいれん診療ガイドライン2015」「小児急性脳症診療ガイドライン2016」および「小児けいれん重積治療ガイドライン2017」を発刊しました.このたび,「小児急性脳症診療ガイドライン2016」を改訂し,「小児急性脳症診療ガイドライン2023」を策定しました.本ガイドラインは,日本小児神経学会「小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ(WG)」によって原案が作成され,本学会評価委員ならびに評議員による内部評価,関連学会と患者団体による外部評価,さらにMindsによるAGREE II評価を経て発刊に至りました.本ガイドライン策定に尽力されました本ガイドライン改訂WG委員ならびにご協力いただきました関連学会,患者団体の皆様,日本小児神経学会員の皆様には,心より感謝申し上げます.
わが国における急性脳症の患者数は1年当たり400~700人と推定され,致死率は5%,神経学的後遺症は35%にみられます.2016年版ガイドラインでは,小児急性脳症の定義や構成する症候群の診断基準等が示され,多くの臨床現場で参考にされてきました.急性脳症は症候群によって予後は大きく異なりますが,いずれも根本的治療法は確立されていません.治療介入により致死率と神経学的後遺症をいかに軽減するかが問われております.海外と比較しわが国で急性脳症が多いとはいえ,一施設が経験する症例数は限られており,ランダム化比較試験の検証は困難であり,小児急性脳症の治療についての質の高いエビデンスは極めて乏しいのが実情です.このような状況の中,本ガイドラインの改訂では,わが国の急性脳症の中で最も高頻度(約30%)で神経学的後遺症を高率(約60%)に認めるけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の体温管理療法に関してシステマティックレビューを実施し推奨文を作成しました.今後も急性脳症の早期診断法や治療開始基準の開発と予後を改善する治療方法の確立が急性脳症診療において望まれます.
本ガイドラインで示された治療選択は画一的なものではなく,推奨は参考にすぎません.実際の治療に当たる場合,病院機能や医療環境がそれぞれ異なりますので,治療方針の決定は,主治医の総合的判断に基づいて行われるべきであることはいうまでもありません.急性脳症の治療には,適応外使用として使われている薬剤が多数あります.本ガイドラインでも,適応外使用薬もその旨を明記したうえで紹介しています.これらの薬剤の使用には,施設ごとに倫理的配慮を含めてご検討いただきたいと思います.さらに重要な点として,本ガイドラインは医療の質の評価,医事紛争や医療訴訟などの判断基準を示すものではないため,医療裁判に本ガイドラインを用いることは認めていません.
本ガイドラインが,小児救急を担当する本学会員や小児科医,総合診療医他の皆様にとって,役立つものであることを願っています.本ガイドラインをご活用いただき,皆様からのフィードバックをいただくことにより,今後の改訂に役立てて参りたいと思います.

2022年11月

日本小児神経学会
理事長  加藤 光広
ガイドライン統括委員会担当理事  前垣 義弘
ガイドライン統括委員会前委員長  福田冬季子
ガイドライン統括委員会委員長  柏木 充


序文(2023)

日本小児神経学会では小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループが中心となり,「小児急性脳症診療ガイドライン2016」(脳症GL2016)の内容を更新するとともに,新たにCQを加えて「小児急性脳症診療ガイドライン2023」を刊行することとなりました.脳症GL2016は水口 雅先生(心身障害児総合医療療育センター・むらさき愛育園長,東京大学名誉教授)のリーダーシップのもと2016年に刊行され,従来あいまいであった「小児急性脳症」が「JCS 20以上の意識障害が急性に発症し24時間以上持続する」と定義されました.急性脳症は1つの疾患ではなく,急性壊死性脳症(ANE),けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD),可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(MERS),難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)など複数の症候群で構成されます.各症候群に特徴的な臨床像・画像所見が脳症GL2016で詳細に記載され認知度が高まりました.実際に2021年に実施された小児急性脳症の施設アンケート(未発表データ)では,脳症GL2016を「とても」「ある程度」参考にしている施設は98%(126/128施設)に上っています.
一方で,急性脳症がわが国の小児に好発し海外からの情報が乏しいこと,急性かつ重篤な中枢神経疾患で二重盲検試験がむずかしいこともあり,エビデンスレベルの高い治療法が確立していません.特に最も高頻度(約40%)で神経予後不良(70%に後遺症)なAESDの治療は重要な臨床課題となっています.「体温管理療法(脳低温・平温療法)はAESD発症を予防するのか」,「ステロイドパルス療法はAESDの予後を改善するのか」は治療法の選択に重要な課題です.エビデンスレベルの高い論文は限定的であり,後方視的コホート研究が複数存在する「急性脳症を疑う患児に対して早期の体温管理療法(脳平温療法:目標体温36°C)は非実施例に比べてAESD発症リスク・後遺症リスクを低下させるか?」のみをCQとして設定し,Minds 2020に基づくシステマティックレビューを実施し推奨文を作成しました.第2章以降の急性脳症の総論・各論記載は教科書としても使用できるようMinds 2007に準拠した脳症GL2016を踏襲しました.脳症GL2016に新たな情報を追記し,項目ごとに推奨と解説を掲載しました.
本ガイドラインは2021年時点での,わが国における小児急性脳症研究の最大公約数的な到達点と思われます.小児急性脳症診療には未解決事項が残され,また定められた標準治療に例外が生じる場合があり得ますが,本ガイドラインが皆様の診療に少しでも役立ち,今後も一層充実して継続発刊できることを願って序文といたします.

2022年11月

日本小児神経学会
小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ委員長  髙梨 潤一


序文(2016)

2013年秋に構想された小児急性脳症診療ガイドラインの策定は2年半の歳月を経て2016年に結実し,刊行の運びとなりました.この間,多くの関係者のみなさまにたいへんお世話になりました.厚く御礼申し上げます.
ガイドライン策定の背景と経過,様々な立場で参画していただいた方々のご尽力につきましては,Introductionの章で触れさせていただきます.この序文では,急性脳症が全体としてどのようなものであるか,それに応じて本ガイドラインがどのように作られているかを概観させていただきます.
急性脳症をひとことで言えば,「感染症の経過中に生じる意識障害で,ある程度以上の重症度と時間経過を呈するもの」です.全体としてある程度のまとまりまたは共通性をもつグループである反面,急性壊死性脳症(ANE),けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD),脳梁膨大部脳症(MERS)など複数の症候群からなる雑多ないし不均一な集合体でもあります.1980年頃は急性脳症の研究が緒についたばかりで,古典的Reye症候群と診断されるたかだか数%の症例を除けば,他の大多数が「分類不能の急性脳症」のままという時代でした.しかしその後,急性脳症の研究は大きく進歩し,ANE(1993~1995年),AESD(1999~2004年),MERS(2004年)などの新しい症候群の確立を経て,2007年頃には症候群分類が一応定着しました.2016年現在では60%の症例が急性脳症のいずれかの症候群に分類されています.しかし現在もなお,残る40%の症例は「分類不能の急性脳症」のままであることも事実です.
急性脳症の病態生理は複雑ですが,1996年以降の20年間に病因,病態の解明が進み,最近では,①代謝異常(特にミトコンドリアのエネルギー産生),②全身性炎症反応(いわゆるサイトカインストーム),③興奮毒性(けいれん重積状態を契機とする神経細胞死)の3つを主な病態と考える立場から,整理が進んでいます.症候群のうち代謝異常を主とするものとしては古典的Reye症候群,全身性炎症反応を主とするものとしてはANE,興奮毒性を主とするものとしてはAESDが代表的です.一方,この3つの病態は相互に関連しており(図1),急性脳症の重症例の一部ではうち2つないし3つが悪循環を形成しつつ,いずれも高度に達するために,かえって症候群としての特徴が不明瞭となり,①②③のどれにも分類しがたいような状態像になることがよくあります.このような症例は多くの場合重篤な経過を辿り,予後不良であることが多いのです.逆に,3つの病態がいずれも軽度にとどまるような軽症例では,意識障害の程度と持続という点では急性脳症の基準を一応満たすものの,臨床検査や頭部画像にこれといった異常所見を示さず,こちらも「分類不能」となります.幸いにしてこのような症例は軽症のまま経過し,自然に軽快して予後良好であることが多いことは周知のとおりです.
本ガイドラインは前半で急性脳症の総論,後半で各論を記載しています.総論は急性脳症のすべての症例に当てはまる原則ですので,軽症~中等症~重症のすべてで,どの症候群でも分類不能の急性脳症でも活用していただきたいものです.一方,各論は主たる病態,前述の①②③別に分けて記載してあります.したがって,そのいずれか1つを主病態とする症候群では,例えば古典的Reye症候群なら代謝異常の章(第4章),ANEなら全身炎症反応の章(第5章),AESDならけいれん重積の章(第6章)といった具合に,該当する章を参照していただきたく思います.また,3つのうち2つ以上が合併するような重症例では,各論の複数の章を使っていただくことになりますし,反対に3つの病態がいずれも軽度にとどまる軽症例では,多くの場合,総論に記載された支持療法のみで十分と考えられます.
本ガイドラインは急性脳症の共通性と不均一性の両方を踏まえたうえで編纂しました.しかし,その本態はとても複雑で,前述のような整理では捉えきれない面がありうることは否めません.そのことは,一部の症例における本ガイドラインの使いづらさにつながるかもしれません.本ガイドラインは急性脳症の研究の発展の初期段階で編纂されたものであり,未解決の問題点を多く抱えています.発刊後は,多くの方々に使っていただきながら問題点を指摘していただき,それらの問題を解決しながら,より良いガイドラインに育ててゆきたいと希望しております.

2016年7月

日本小児神経学会
小児急性脳症診療ガイドライン策定委員会委員長  水口 雅