
薬剤性内分泌障害診療マニュアル
定価:4,950円(税込)
推薦のことば
内分泌代謝・糖尿病領域には多くの大家がご活躍されており,私のような若輩者が本書に推薦のことばを寄せるのは,誠に僭越と存じます.しかし,日々臨床の現場で学ばせていただいている一人として,本書の価値をぜひ共有したいという思いから,筆を執らせていただきました.
20世紀を代表する知の巨人,アルベルト・アインシュタイン(1879〜1955)は「The only source of knowledge is experience(知識の唯一の源は経験である)」と語ったとされています.まさに臨床の現場で実際に疾患と対峙することこそ,知識を生きた理解へと昇華し,「身体化」する最も確かな手段です.先端巨大症やCushing症候群に典型的とされる身体所見を,実際に自らの目で確認したときの鮮烈な印象.インスリノーマの局在診断に際し,選択的動脈内カルシウム注入試験に臨むべく,大量の採血管を携えて血管撮影室へと向かうときの静かな使命感.あるいは,悪性度の高い副腎皮質癌を診断し,緊張感をもって言葉を選び行った病状説明.こうした一つひとつの経験を通じて,少しずつ臨床の奥行きに触れていくのだと感じさせられます.
とはいえ,内分泌代謝・糖尿病領域は多臓器にわたり,希少疾患も多い,極めて広く深い学問です.現場で出会う一例一例が,点在する星々のようであり,個人の経験のみに依拠していては,全体像を見失う危険も孕んでいます.
そこで本問題集の意義が際立ちます.本書は,各分野のエキスパートの先生方が練り上げた設問を通して,点としての知識を線と面へと繋ぎ,内分泌代謝・糖尿病領域という広大な世界の地図を,自らの内に描き出すための羅針盤となってくれます.もちろん,それは一度描けば完成するものではありません.これから出会う症例や経験によって,絶えず書き換えられていく「更新可能な地図」,すなわち学びのロードマップです.しかしその地図があることで,私たちはやがて訪れる「邂逅」―すなわち,患者と知識の具体的な交差点―に備えることができるのです.そして,その邂逅を通じて知識が身体化されたとき,改めて本書を手に取れば,かつて静的だった情報が新たな文脈のなかで活性化され,より深い理解へと導いてくれると思います.
本書を手に取る読者の多くは,専門医取得を目指す若手医師であるかと思います.しかし本書が資格試験のための参考書にとどまらず,内分泌代謝・糖尿病という豊かな知の森を探求する旅人たち(Endocrine Travelers……私自身もその一人です)にとって,確かな道標となることを,心から願っています.
2025年4月
東京科学大学病院糖尿病・内分泌・代謝内科
村上正憲
序 文
糖尿病を含む内分泌代謝学がカバーする診療領域は極めて広く,内容も多彩で,学問の進歩に伴って,専門医が理解・習得すべき事項は極めて多くなっている.編集者らは内分泌代謝疾患の診療に従事する全ての医師,専門医の学習をサポートし,内分泌代謝疾患の診療水準向上を目的として,長年に亘り横断的,縦断的切り口から内分泌シリーズの企画を刊行してきた.2007年4月に本内分泌シリーズの第1号として『内分泌代謝専門医ガイドブック(初版)』を刊行したが,その後現在までの18年間で『原発性アルドステロン症診療マニュアル』『褐色細胞腫診療マニュアル』『クッシング症候群診療マニュアル』『甲状腺疾患診療マニュアル』など計22企画を刊行し,総発行部数は12万余部に達している.
今回改訂のもととなった『内分泌代謝専門医のセルフスタディ230』は内分泌シリーズの15作目で,2015年の初版発行から10年を経たことから今回大幅な改訂を行った.多忙な日常診療のなか,実際に担当した患者につき解決すべき課題を内分泌代謝学の教科書で学習することは容易ではない.一方,問題形式の場合,自分の知識や判断をその場で問われることになり,テキストに対して能動的な姿勢で取り組むことが可能となる.自分では理解しているつもりが,いざ問題形式で明確な解答を求められると,意外に自分の知識があやふやであることに気がつくことも少なくない.問題に向きあうことで,知識を整理,間違った理解を修正し,自分の専門分野以外の知識も比較的効率よく習得することが可能となる.
今回の改訂では,前版発行以降に変更のあった多くの主な診断基準・診療ガイドラインに対応して内容を大幅に刷新した.問題作成は前版と同様に内分泌代謝学の第一線の若手の先生方に,ブラッシュアップは中堅あるいは指導的立場で診療・教育に従事している先生方にお願いした.視床下部・下垂体から糖尿病までの各領域の問題をバランスよく配分し,参考とすべく各問題に難易度を付記した.執筆・ブラッシュアップを担当していただいた先生方にはご多忙なところ大変なご負担をおかけしたことを改めてお詫び申し上げるとともに,ご協力に深く感謝申し上げる次第である.本書がわが国の内分泌代謝学のセルフスタディのツールとして多くの臨床医に活用いただければ幸いである.
2025年4月
医仁会武田総合病院
内分泌センター・臨床研究センター センター長
成瀬光栄
口絵カラー
推薦のことば
序 文
執筆者一覧
略語一覧
第1章 下垂体 問題1~40
第2章 甲状腺 問題41~79
第3章 副甲状腺・骨代謝 問題80~109
第4章 副 腎 問題110~146
第5章 性腺,消化管,多腺性,遺伝性内分泌 問題147~170
第6章 糖尿病,脂質,肥満 問題171~214
第7章 妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠 問題215~225
第8章 小児科 問題226~230
索 引
問題索引