株式会社 診断と治療社

結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン2025

わが国での発症頻度は7,000人に1人とされる結節性硬化症.その患者の7~9割に認められるてんかんは薬剤抵抗性の割合が大きく,多岐にわたる治療選択が求められる.本書では結節性硬化症の疾患概念と疫学・病態,検査,薬剤抵抗性てんかんの考え方,治療について論述し,CQとして「結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんにおいて,mTOR 阻害薬の併用は同剤を併用しないことよりも推奨されるか」を記載.臨床の現場でただちに役立つ一書となろう.
定価:
3,850円(本体価格 3,500円+税)
発行日:
2025/06/04
ISBN:
9784787826183
頁:
120頁
判型:
B5
製本:
並製
在庫:
在庫あり
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序文

発刊にあたって

日本小児神経学会は小児神経疾患の診療標準化を目指しており,2011年にガイドライン統括委員会を発足させました.本学会ではこれまでに5つの診療ガイドライン「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」,「小児急性脳症診療ガイドライン2023」,「小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023」,「小児痙縮・ジストニア診療ガイドライン2023」,「小児チック症診療ガイドライン」を発刊しています.そしてこのたび,「結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン」を策定しました.本ガイドラインは,日本小児神経学会「結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン策定ワーキンググループ」(岡西 徹委員長)によって原案が作成され,本学会評価委員ならびに評議員による内部評価,関連学会と患者団体による外部評価,さらにMindsによるAGREEⅡ評価を経て発刊に至りました.本ガイドライン策定に尽力されました策定ワーキンググループ委員,ならびにご協力いただきました関連学会,患者団体の皆様,日本小児神経学会員の皆様には,心より感謝申し上げます.

結節性硬化症は全身の疾患で神経系に加えて皮膚,眼,心,腎,肺,骨など様々な臓器に過誤腫とよばれる良性の腫瘍や過誤組織とよばれる病変が生じる疾患です.mTORの活性化により蛋白合成や細胞増殖が促進されることが基本病態です.わが国の発生頻度は7,000人に1人とされており決してまれな疾患ではありません.常染色体顕性遺伝形式をとりますが,孤発例も多いです.中枢神経症状としててんかん,知的発達症,神経発達症が好発し,MRI検査では皮質結節や上衣下巨細胞性星細胞腫が見つかることがあります.てんかんは結節性硬化症患者さんの70~90%に認められ,乳児期に乳児てんかん性スパズム症候群(点頭てんかん,West症候群)で初発する患者さんも多くおられます.結節性硬化症のてんかんはしばしば薬剤抵抗性であり,診療上大きな問題となります.種々の抗てんかん発作薬,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),外科的治療,食事療法などに加えて,mTOR阻害薬(エベロリムス)が臨床応用されています.

本ガイドラインはCQに加えて,結節性硬化症の疾患概念と疫学・病態,検査,薬剤抵抗性てんかんの考え方,治療の全5章から構成されており,臨床現場で直ちに役立つものとなりました.特に,mTOR阻害薬の併用に関してはCQとしてシステマティックレビューに基づき検討され「結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんにおいて,mTOR阻害薬の併用は同剤を併用しないことに比べて条件付きで推奨される」と記載されました.一方で,本ガイドラインは画一的な治療法を示したものではなく,実際の治療方針の決定は主治医の総合的判断に基づいて個々に決定されることが原則です.また,本ガイドラインは医療の質の評価,医事紛争や医療訴訟などの判断基準を示すものではないため,医療裁判に本ガイドラインを用いることは認めていません.

本ガイドラインが,結節性硬化症の診療に携わる医療者,患者さん・ご家族の皆様にとって,役立つものであることを願っています.本ガイドラインをご活用いただき,皆様からのフィードバックをいただくことにより,今後の改訂に役立てて参りたいと思います.

2025年4月

日本小児神経学会
理事長  加藤 光広
ガイドライン統括委員会担当理事  髙梨 潤一
ガイドライン統括委員会委員長  柏木 充




序文

2018年に構想された結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドラインの策定は,コロナ禍が間に入ったこともあり時間がかかりましたが,2025年6月に刊行の運びとなりました.委員長を長きにわたり支えてくださった委員の方々,アドバイスを下さった日本小児神経学会の先生方,日本結節性硬化症学会の先生方,途中の推奨決定において参加いただいた外部委員の方々には,この場をもって厚く御礼申し上げます.
結節性硬化症(TSC)は,多臓器にまたがり様々な症状を合併します.合併する臓器においては皮膚,脳,眼,口腔内,肺,心臓,腎臓といった臓器に過誤腫や過誤組織,腫瘍が発生します.時に肝臓や骨などにも病変が認められます.また近年はTSC関連神経精神症状(TAND)とよばれる精神神経症状もクローズアップされています.
かつてTSCは生命予後が悪く,脳の巨細胞性星細胞腫による水頭症,腎臓の血管筋脂肪腫の破裂,肺リンパ脈管筋腫症による呼吸不全などにより若いうちに死に至るイメージが強かったのですが,合併症への検査管理方法,治療介入の進歩と,mTOR阻害薬の登場により生命予後が大きく改善してきております.代わって生活の質(QOL)にかかわる機能的な病態が患者さんにとっての一番の関心事となりつつあります.
そのなかでもてんかんは,治療方法が非常に発展した現在でも薬剤抵抗性の割合が高く,また他の治療としてもてんかん外科手術,迷走神経刺激療法(VNS),食事療法とmTOR阻害薬と,医学が進歩した分だけ複雑多岐にわたる治療選択が必要になってきています.
本ガイドラインが,てんかんに悩むTSCの患者さん,そのご家族,診療する医療者にとり少しでも役立ち,管理や治療の道しるべになることを願って序文といたします.

2025年4月

日本小児神経学会
結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン策定ワーキンググループ委員長
日本結節性硬化症学会 理事
岡西 徹

目次

発刊にあたって
序文

ガイドラインサマリー
略語一覧
結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン2025 作成組織
結節性硬化症に伴うてんかんの治療ガイドライン2025 作成過程
海外の結節性硬化症に伴うてんかんに対する治療ガイドライン


第1章 クリニカルクエスチョン
 CQ1 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんにおいて,mTOR阻害薬の併用は同剤を併用しないことよりも推奨されるか

第2章 疾患の概念と疫学・病態
 2-1 結節性硬化症とはどのような病気か
 2-2 結節性硬化症の診断はどのように行うか
 2-3 結節性硬化症に伴うてんかんの疫学
 2-4 結節性硬化症に伴うてんかんの病態

第3章 検査
 3-1 結節性硬化症の診療に有用な頭部画像検査は何か
 3-2 結節性硬化症に伴うてんかんの通常脳波検査の意義は何か
 3-3 結節性硬化症に伴うてんかんの長時間ビデオ脳波モニタリング検査の意義は何か
 3-4 結節性硬化症に伴う乳児てんかん性スパズム症候群(West症候群を含む)の早期発見には何を行うか

第4章 薬剤抵抗性てんかんの考え方
 4-1 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんの定義とは何か
 4-2 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんとなる患者の特徴は何か

第5章 治療
 5-1 新規発症の焦点てんかんへの選択薬には何があるか
 5-2 結節性硬化症の患者において,てんかん未発症の段階で脳波異常を認める場合の治療の考え方にはどのようなものがあるか
 5-3 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんにおける治療には,どのようなものがあるか
 5-4 結節性硬化症に伴う乳児てんかん性スパズム症候群(West症候群含む)において,ビガバトリンは有用か
 5-5 結節性硬化症に伴う乳児てんかん性スパズム症候群(West症候群含む)において,ACTH療法は有用か
 5-6 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんへのてんかん外科手術(開頭)は有用か
 5-7 結節性硬化症に伴うてんかんへのmTOR阻害薬の使用はどのように行うか
 5-8 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんにおいて迷走神経刺激療法は有用か
 5-9 結節性硬化症の薬剤抵抗性てんかんにおいて食事療法は有用か

付録
外部評価

索引

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