子どもの発育・発達と乳幼児健診
定価:4,950円(税込)
推薦のことば
小児の花粉症患者は依然として増加しています.花粉症を引き起こす花粉は国内では60種類以上が知られていますが,なかでもスギ・ヒノキ花粉による花粉症患者がもっとも多くみられます.花粉症は単に鼻の症状だけではなく,さまざまな合併症を引き起こし患者の生活の質に悪影響を及ぼします.特に小児期に発症した花粉症は自然に症状が改善することが少なく,多くの患児は花粉症を有したまま成人に移行し,長い期間花粉症の症状に苦しむことになります.
本書を執筆されている岡藤郁夫先生は,長く小児のアレルギー疾患の診療に取り組んでこられました.そのなかで,小児の花粉症治療の重要性を強く認識されたことがこの本の執筆につながっています.疫学,病態,治療についてわかりやすく的確に解説されているだけではなく,単に鼻や眼の症状のコントロールだけでもなく,幅広い視点で花粉症の小児の診療にきちんと向き合っていく必要性について記載されています.そして,治療のなかで免疫療法は,対症療法より効果が高く,何より病態を変えうる治療として注目されること,特に,薬の管理が容易で安全性が高い舌下免疫療法は,今後の花粉症治療の中心を担っていくと考えられ,そこに力点を置いた記述になっています.免疫療法の意義,方法,注意点について,普及に向けて実際の臨床に即した解説をされています.患者向けの記載も大変わかりやすいものになっており,患児また保護者への説明に大変有用です.
私は,岡藤先生の小児の患者の診療に真摯に取り組まれる姿勢に以前から敬意を抱いておりました.小児期の花粉症への対応はその後のさまざまな疾患の対策につながると考えていらっしゃる先生のお考えに感服しております.スギ・ヒノキ花粉以外にも,地球温暖化の影響でイネ科やその他さまざまな植物の花粉の飛散時期が長くなり飛散量が増え,その結果小児の花粉症患者は増え続けることが危惧されています.本書は,小児の花粉症の診療にあたる医師のみならず,広く医療関係者に大変役立つ座右の書として強く推奨いたします.
2025年9月
千葉労災病院院長(千葉大学名誉教授) 岡本美孝
スギ花粉症重症化ゼロ作戦へのお誘い
春になると,多くの人が目のかゆみ,鼻水,くしゃみに悩まされます.
「またこの季節がやってきた」とため息をつきながら,マスクや目薬を手放せない日々を過ごしている人も少なくありません.
単なる季節性鼻炎?
いいえ,それだけではありません.
夜は眠れず,昼は頭が重く,集中できない.学業の能率は落ち,仕事の効率も低下する.
子どもにとっては,授業に集中できない,体育やクラブ活動に支障が出るといった問題が生じます.
受験シーズンとスギ花粉飛散のピークが重なる日本にとって,その影響は計り知れません.
社会人になってからも,「大事な商談は花粉の季節を避けている」と語る声すらあります.家庭では,親がくしゃみや鼻水に苦しむことで,育児や家事のリズムが乱れることもあるでしょう.
つまりスギ花粉症は,単なる「鼻の病気」ではなく,睡眠,学業,仕事,家庭生活,社会活動―人生のあらゆる場面に影響する全身性の疾患なのです.
けれども,希望はあります.
スギ花粉症は“うまく治せる疾患”です.
抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬など,症状をすぐにやわらげる薬物療法.
花粉曝露を減らす環境整備や,鼻うがいなどのセルフケア.
そして,免疫の仕組みに働きかけ,体質そのものを変える可能性を秘めたアレルゲン免疫療法―舌下免疫療法や皮下免疫療法.
これらを適切に組み合わせれば,症状は確実に改善し,生活の質(QOL)は大きく向上します.
夜はぐっすり眠れるようになり,日中は集中力を取り戻せる.勉強も仕事もはかどり,患者さん本人だけでなく家族全体の生活が明るく変わります.
本書は,そのための実践的なガイドです.
想定している読者は多岐にわたります.
・スギ花粉症を正しく診たい医師
・家族や自分自身がスギ花粉症に悩む医療者
・目の前のスギ花粉症の患者さんにどう対応すべきか迷っている医療者
・そして,もしかしたら,スギ花粉症に苦しむ患者さん
どの立場で読んでいただいても,明日からの診療や生活に役立つ知識と視点を得られるはずです.
本書の内容は,疫学,診断,疾患負荷,薬物療法,アレルゲン免疫療法(舌下・皮下),セルフケア,さらにはスギ以外の花粉症,そして社会全体での取り組みまで,多角的に整理しました.
特に小児を中心に解説していますが,成人診療にも十分応用できる構成になっています.
スギ花粉症を全身疾患として捉え,診断と治療をアップデートすること.
それは,患者さん一人ひとりの笑顔を取り戻すだけではありません.
子どもたちが安心して学べる学校生活を支え,社会人が本来の力を発揮できる職場を取り戻し,日本社会全体の活力を高めることにつながります.
この本を読み進めるうちに,きっと気づかれると思います.
―「スギ花粉症重症化ゼロ作戦」は夢ではなく,私たちの日常診療からはじめられる現実的な挑戦である,と.
スギ花粉症は,もはや避けて通れない国民的課題です.だからこそ,私たち医療者が正面から向き合い,一歩を踏み出すことに意味があります.
ぜひ一緒に,その第一歩を踏み出しましょう.
「スギ花粉症重症化ゼロ作戦」へようこそ.
2025年9月
神戸市立医療センター中央市民病院小児科 岡藤郁夫
推薦のことば 岡本美孝
スギ花粉症重症化ゼロ作戦へのお誘い
Chapter 1 花粉症とは?
1 花粉症の歴史
2 花粉症のメカニズム
3 花粉症の疫学
Chapter 2 花粉症の診断
1 問診,診察の流れ
2 鼻腔所見のみかたと評価方法
3 アレルギー性鼻炎診断の流れと検査
Chapter 3 疾患負荷
1 見逃される疾患:診断の遅れと自己管理の課題
「ただの風邪」と見過ごされることで,慢性化し重症化する子どものアレルギー性鼻炎
2 併存症と身体的負担:多臓器にわたる影響と疾患の連鎖
鼻だけの病気ではない―アレルギー性鼻炎は全身に影響を及ぼす“全身性アレルギー疾患”
3 睡眠の質の低下と日中の影響
「夜に眠れず,昼にぼんやり」―子どものQOLを左右するアレルギー性鼻炎の見えにくい負担
4 学習と日常生活への影響
「ちゃんと来ているのに集中できない」―見過ごされるパフォーマンス低下と社会参加の制限
5 精神的・社会的影響(こころと発達)
「本人のがんばりの問題ではない」―感情・行動・発達に及ぶアレルギー性鼻炎の影響を見逃さない
6 ウェルビーイングの視点でアレルギー性鼻炎の疾患負荷を整理する
Chapter 4 花粉症の治療法(アレルゲン免疫療法以外)
1 花粉症の治療目標および概要
2 ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)
3 ロイコトリエン受容体拮抗薬(抗ロイコトリエン薬)
4 鼻噴霧用ステロイド薬
5 血管収縮薬
6 生物学的製剤
7 漢方薬
8 手術
9 疾患重症度に応じた治療法の選択
Chapter 5 アレルゲン免疫療法とは?
1 アレルゲン免疫療法って?
2 アレルゲン免疫療法はなぜ効くの?
3 アレルゲン免疫療法の意義と適応
4 アレルゲン免疫療法の種類
患者さん用説明資料 アレルゲン免疫療法ってどんなもの?
Chapter 6 舌下免疫療法(SLIT)の導入と実践
1 舌下免疫療法(SLIT)導入の手順
2 舌下免疫療法(SLIT)の維持療法のポイント
患者さん用説明資料 舌下免疫療法(SLIT)ってどんな治療?
Chapter 7 皮下免疫療法(SCIT)の導入と実践
1 スギ花粉症治療における皮下免疫療法(SCIT)の必要性
2 皮下免疫療法(SCIT)導入の手順
3 皮下免疫療法(SCIT)の注意点
患者さん用説明資料 皮下免疫療法(SCIT)ってどんな治療?
Chapter 8 花粉症のセルフケア
セルフケアはこう指導しよう
やってみよう セルフケア 効果を最大に! 鼻噴霧用ステロイド薬5つのステップ
やってみよう セルフケア まだ鼻をかめないお子さんの鼻水の取り方
やってみよう セルフケア 簡単,痛くない,鼻うがいのやり方
やってみよう セルフケア 鼻のかみ方
やってみよう セルフケア 花粉が飛んでいそうなときはマスクをしましょう
やってみよう セルフケア 花粉が飛んでいるときに気をつけておきたいこと
やってみよう セルフケア 子どもを守る! おうちでできるダニ対策4つのポイント
Chapter 9 スギ以外の花粉症
1 樹木花粉と草本花粉
2 ヒノキ花粉症
3 カバノキ科花粉症
4 イネ科花粉症
5 キク科花粉症
6 カナムグラ花粉症
Chapter 10 花粉症診療のこれから
1 花粉症対策の現在とこれから
2 医療者に求められる視点の転換
文献一覧
Index
おわりに
著者プロフィール