株式会社 診断と治療社

褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2025

作成プロセス,エビデンスの強さ,推奨度はMinds 診療ガイドライン作成マニュアルに準拠して作成した.前回2018年からの主な変更点は,1)神経内分泌腫瘍の位置づけが明確となったPPGLの疾患概念の変更,2)診療アルゴリズム,診断基準の精緻化,3)新規の機能検査,画像検査の位置付け,4)遺伝学的検査の実診療での施行と注意点,5)新規核医学治療,6)頭頸部PGLの追加,7)小児発症例の診断・治療,などであり,そのほか近年話題の分子標的薬の現状と展望についても掲載している.
定価:
3,740円(本体価格 3,400円+税)
発行日:
2025/06/13
ISBN:
9784787826961
頁:
144頁
判型:
B5
製本:
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序文

「褐色細胞腫・パラガングリオーマ
診療ガイドライン2025」作成にあたって

 褐色細胞腫は1886年にドイツの病理学者であるFelix Fraenkelによりはじめて報告されて以来,約140年の歴史を有する古典的かつ代表的な内分泌腫瘍である.その後,1926年に米国メイヨークリニック 創設者の1人であるCharles H. Mayoにより一連の症例において高血圧や発作性症状の出現など,臨床的特徴が詳細に報告され,内分泌性高血圧を呈する代表的な副腎疾患との臨床的意義が確立され,現在では基本的に同じカテゴリーの疾患であるパラガングリオーマ(PGL)と合わせて,褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)として総称される,疾患のカテコールアミンの過剰産生とそれに伴う高血圧などの多様な症状を呈する内分泌疾患としての特徴と,潜在的に転移を来す悪性疾患と位置づけられ,実際,患者の約10~20%において骨,肺,肝臓,リンパ節などへの転移を認める.ホルモン測定法と画像検査法の進歩により,典型例での診断は比較的容易になってきたが,希少疾患であるため,異なる専門分野の医師が経験することも少なくなく,標準的な診療ガイドラインの必要性が高い疾患であるといえる.著者らは,これまで厚労省の研究班,日本内分泌学会,日本臨床研究開発機構,国立国際医療研究センターの支援,連携により,褐色細胞腫診療指針を2010年,2012年に作成,2018年に「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」を発表してきた.しかし,その後,7年が経過し,その間,病態,診断,治療において様々な進歩が見られたことから,ガイドライン2018年版を改訂し,2025年版を作成することとした.
 主な変更点は,1)神経内分泌腫瘍の位置づけが明確となったPPGLの疾患概念の変更,2)診療アルゴリズム,診断基準の精緻化,3)新規の機能検査,画像検査の位置づけ,4)遺伝学的検査の実診療での施行と注意点,5)新規核医学治療,6)頭頸部PGLの追加,7)小児発症例の診断・治療,などである.今回の改訂でも2018版と同様に作成プロセス,エビデンスの強さ,推奨度はMinds診療ガイドライン作成マニュアルに準拠して作成したが,想定以上に多くの時間とエフォートが必要であった.作成委員会,システマティックレビュー委員会,査読委員会の委員,顧問の先生方の協力,尽力に改めて深謝する.本診療ガイドラインがわが国の褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療水準,患者QOL,さらにわが国の公衆衛生の向上に貢献できれば幸いである.

2025年5月

一般社団法人 日本内分泌学会 臨床重要課題
「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドラインの策定と診療水準向上」代表者
国立国際医療研究センター
糖尿病内分泌代謝科 診療科長,内分泌・副腎腫瘍センター センター長
田辺 晶代





序文(2018年版)
 褐色細胞腫・パラガングリオーマは各々副腎髄質,傍神経節から発生する腫瘍で,カテコールアミン過剰産生に伴う多様な症状,高血圧を呈する.腫瘍性疾患であるが,同時にホルモン産生異常症(副腎機能亢進症)の両面を有する代表的な副腎疾患である.その診断を念頭におけば,機能的診断法と画像診断法の進歩により典型例の診断は比較的容易である.しかしながら,希少疾患であることから,診断・治療の各ステップにおけるエビデンスは十分ではなく,また,無症候の症例,偶発腫瘍としての経験例,高血圧クリーゼや腫瘍破裂での発見例,さらに初回手術後,長期間経過後に転移が発見される悪性例など,臨床的に最も課題の多い内分泌疾患の一つである.このため筆者らはわが国における診療水準の向上を目的として,厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成に関する」研究班,厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究「褐色細胞腫の診断及び治療法の推進に関する」研究班,「副腎ホルモン産生異常症調査研究班」,日本内分泌学会臨床重要課題褐色細胞腫検討委員会の連携により,褐色細胞腫診療指針を2010年に作成,2012年に改訂作業を行い,全国に3,000冊以上を配布して来た.診療指針の普及による診療水準の向上に貢献し得たと考えている.その後,改訂作業を開始したが諸般の事情で作業が遅れ,この度ようやく「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」として刊行に至った.
 今回の改訂は①内容のアップデート,②エビデンスレベルや推奨グレードの付与による客観性担保,③米国内分泌学会ガイドラインとの整合性,④診断基準,アルゴリズムの見直しなどが改訂の要点である.Minds診療ガイドライン作成マニュアル2007に準拠した改訂方針としたが,途中,Minds診療ガイドライン作成マニュアル2014が発表された.難病・希少癌ではレベルの高いエビデンスに乏しいことから,システマティック・レビューを行うことが困難であったが,エビデンスの強さ,推奨度などの表現がガイドラインの利用者にとってユーザーフレンドリーであることから,2014版を参考とした表示とした.本診療指針の改訂は日本内分泌学会臨床重要課題褐色細胞腫検討委員会(委員長 成瀬光栄),国立研究開発法人日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「難治性副腎疾患の診療に直結するエビデンス創出」研究班(研究開発代表者 成瀬光栄)と厚生労働省難治性疾患政策医療研究班(研究代表者 長谷川奉延),研究開発法人国立国際医療研究センター国際医療研究開発費「難治性副腎疾患の診療の質向上と病態解明に関する研究」研究班(主任研究者 田辺晶代)によるもので,執筆は前回執筆に従事した委員を執筆委員とし,一部の新規項目には新たな執筆者を依頼した.関係各位の協力・尽力に改めて御礼申し上げると共に,本診療ガイドラインがわが国の褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療水準,患者QOL,さらにわが国の公衆衛生の向上に貢献できれば幸いである.

2018年4月

一般社団法人 日本内分泌学会 悪性褐色細胞腫検討委員会 委員長
国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 特別研究員
成瀬 光栄





序文(2012年版)
 ホルモン測定法,画像診断,手術手技の進歩により,わが国においては典型的な褐色細胞腫の診療水準は極めて高いレベルに到達しており,その多くの例は治癒可能である.しかしながら,その進歩と対照的に注目されてきたのが悪性褐色細胞腫・パラガングリオーマである.全褐色細胞腫の約10~15%程度を占め,局所再発や骨,肝,肺,リンパ節などへの転移を伴う.特徴は他の癌と異なり,組織学的に良性か悪性かの鑑別が困難であること,悪性に対する有効な治療法が未確立であることである.悪性例の30%以上は初回診断時に明確な転移がなく,良性と診断されており,術後,1年から長い場合は25年以上も経て,転移性病変が出現する.最近は,局所再発例の経験も少なくない.副腎疾患の専門医も決して多いとは言えないが,褐色細胞腫を専門とする医師はさらに少ない.それ故,実際に患者を担当すると,治療方針に極めて難渋する.このような背景から,厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究班は日本内分泌学会と連携して「褐色細胞腫診療指針2010」を作成した.「悪性褐色細胞腫診療指針」ではなく「褐色細胞腫診療指針」としたのは,一見「良性」とみえる例も含めて対策をとる必要があるからである.2010年3月に刊行後,全国疫学調査での協力施設,Pheo?J Netへの参考登録者,希望者を中心に約1,500冊を全国に配布した.しかしながら,その後,当該分野での進歩や2010年版では不十分であった項目につき,追加,補充が必要となったことから,今回,「褐色細胞腫診療指針2012」を刊行することとした.各項目で執筆担当の先生方に追加,訂正をお願いしたが,特に,妊娠時における診断と治療,悪性例で経験される慢性の便秘や骨転移による疼痛の治療,今後期待される新たな治療法などについては,新規項目として執筆をお願いした.悪性褐色細胞腫の患者数は約300名と少なく,全国に分散して経験されることから,診断・治療に関するエビデンスの構築は容易ではない.それ故,国内外の文献やエキスパート・オピニオンを基本に,わが国の医療の現状を考慮して,現時点で可能な限りの内容に改訂した.本診療指針がわが国における褐色細胞腫・悪性褐色細胞腫の診療水準向上に貢献できることを祈念するとともに,改訂に協力頂いた諸先生方に改めて感謝申し上げる次第である.

2012年3月

厚生労働省難治性疾患克服研究事業
「褐色細胞腫の診断及び治療法の推進に関する研究」研究班 研究代表者
社団法人 日本内分泌学会 悪性褐色細胞腫検討委員会 委員長
成瀬 光栄





序文(2010年版)
 褐色細胞腫は原発性アルドステロン症,クッシング症候群と共に,治癒可能な副腎性高血圧症の代表的疾患とされる.その機能・画像診断法,内科的・外科的治療はほぼ確立されていが,他と比較して大きく異なる点は悪性例が多いことである.厚生省副腎ホルモン産生異常症調査研究班(名和田 新班長)の1997年の全国疫学調査では,褐色細胞腫の推定患者数は約1,000例でその11
%,約100例が悪性褐色細胞腫と推測されている.原発性アルドステロン症では0.2%が悪性であるので,明らかに褐色細胞腫における悪性例が多い.しかも初回診断時に良性か悪性かを鑑別するのが極めて困難である.遠隔転移があれば診断は容易であるが,副腎(および近傍)の単発性腫瘍の場合,「良性」か「悪性」かの鑑別ができず,数年後に骨転移などの遠隔転移により初めて悪性であったことが判明する.働き盛りの年代に多く,緩徐にかつ進行性に増悪することから,長期に亘る患者への身体的負担や家族も含めた精神的,経済的負担は大きい.さらに例え「悪性」と診断されても治療法は未確立である.このようなことから悪性褐色細胞腫は明らかに難治性の内分泌疾患である.
診療指針作成の目的
1.診断・治療法の現状の総括
2.標準的診療の普及による水準向上
3.診断・治療法確立の必要性の啓発
 この様な背景から,日本内分泌学会臨床重要課題「悪性褐色細胞腫」検討委員会と厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班との合同により,『褐色細胞腫診療指針』を作成した.本診療指針作成の目的は1)診断・治療法の現状の総括,2)現時点での標準的診療の普及による水準向上,3)診断・治療法確立の必要性の啓発である.当該領域の医師のみならず,褐色細胞腫を経験し得るすべての医師を対象としており,実際に患者を経験した場合に行なうべき現時点での標準的な診断,治療法を実践的にまとめると共に,今後,治療成績の向上に貢献し得ると考えられる診療技術についても要約した.しかし,本疾患は極めて患者数が少ない上,最近の実態も今回の疫学調査で初めて明らかになったばかりであることから,現時点ではエビデンスに基づいた診断・治療法の提示は容易ではなく今後の課題といえる.したがって,実際の臨床現場における診療は,個々の患者の病態,背景を充分に考慮したうえで主治医の判断で決定されるもので,本診療指針がその判断を拘束するものではない.また,本診療指針が医療紛争,医療訴訟における判断基準を示すものでもない点を強調しておきたい.
 本診療指針は,各診療分野からの検討委員会委員,厚生労働省研究班班員の先生方に執筆,査読,評価の役割を分担していただき改訂を重ねるとともに,外部評価の方々の意見も受けて作成したものである.これによりわが国における褐色細胞腫の診療水準の向上と患者QOLの改善に貢献できれば幸いである.最後に本診療指針作成にご協力戴きました関係各位に心より御礼申し上げる.

2010年3月

厚生労働省難治性疾患克服研究事業
「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 研究代表者
社団法人 日本内分泌学会 悪性褐色細胞腫検討委員会 委員長
成瀬 光栄

目次

目 次

●「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2025」作成にあたって
●序文(2018年版)
●序文(2012年版)
●序文(2010年版)
●要約
●目次
●日本内分泌学会褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2025作成委員会
●褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)の診療アルゴリズム
●転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)の診療アルゴリズム
●褐色細胞腫・パラガングリオーマの診断基準
●転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマの診断基準
●用語および略語に関して
●本ガイドラインについて
 A 目的
 B 改訂の基本コンセプト
 C 方法
 D 合意形成プロセス
 E 資金源と利益相反の自己申告
 F 免責事項,使用上の留意点,著作権
 G 作成経過
 H 情報公開の予定

第Ⅰ章 褐色細胞腫・パラガングリオーマ  
  1 総論
  2 疫学
  3 内分泌学的診断(機能診断)
  4 画像診断
  5 内科的治療
  6 外科的治療
  7 高血圧クリーゼ
  8 頭頚部パラガングリオーマの診断・治療
  9 妊婦における診断・治療
  10 小児期発症例PPGLの標準的診断・治療
  11 病理組織診断
  12 遺伝学的検査・遺伝カウンセリング
  13 遺伝子病的バリアントに応じた診療アルゴリズム
  14 予後およびライフロング・サーベイランス
 
第Ⅱ章 転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマ  
  1 転移リスクの評価法
  2 化学療法
  3 核医学治療
  4 放射線外照射(骨転移,軟部組織転移への照射)
  5 骨転移の治療
  6 疼痛の治療
  7 便秘の治療

第Ⅲ章 Perspectives  
  Perspectives

第Ⅳ章 FAQ(フリークエントリー・アスクド・クエスチョンズ)  
  1 がん登録における褐色細胞腫・パラガングリオーマの現状・位置付け
  2 カテコールアミン非産生腫瘍の診断と治療
  3 分子標的薬の現状と展望
  4 海外における核医学検査・治療 Update

第Ⅴ章 参考資料  
  参考資料

第Ⅵ章 利益相反の開示  
  利益相反の開示

●文献
●索引

関連書籍

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