日本リウマチ学会 シェーグレン症候群診療ガイドライン 2025年版
定価:4,180円(税込)
発刊に寄せて
「自己炎症性疾患診療ガイドライン2026」は,厚生労働省「自己炎症性疾患とその類縁疾患の全国診療体制整備,移行医療体制の構築,診療ガイドライン確立に関する研究」班を中心に作成され,日本リウマチ学会,日本小児リウマチ学会,日本免疫不全・自己炎症学会が編集しました.本学会では,自己炎症ガイドライン小委員会(西小森隆太委員長)が担当し,学会員のパブリックコメントを経て,最終的に理事会で承認してオーソライズしました.ご尽力いただいた関係の皆様には心から厚く御礼申し上げます.
自己炎症は1999年に米国NIHのDaniel Kastner博士らが提唱した概念で,自然免疫系の異常による炎症を主病態とする遺伝性疾患とされ,生活の質に大きな影響を及ぼします.本ガイドラインでは,A20ハプロ不全症,化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群,中條・西村症候群,家族性地中海熱,周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎症候群が取り上げられています.Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し,6つのClinical Question(CQ)を立ててシステマティックレビューを行い,Delphi法を用いた専門家討議を経て,エビデンスの評価・統合後に推奨文が作成されています.希少疾患であるために大変な苦労のもと,サブCQを設定するなどの工夫がなされています.
自己炎症性疾患の多くは,膠原病等の多くの内科疾患との鑑別,成人への移行に伴う管理の問題など,リウマチ診療においても重要な疾患から構成されます.治療は分子標的薬が期待されますが,多くは保険未収載で,速やかな承認が待たれます.一方,自己炎症という概念によって,自己抗体は介在しないが,炎症性サイトカインが深く関与するベーチェット病などの病態の考え方にも影響を及ぼしつつあります.いずれにしても,自己炎症性疾患診療の実践に広く役立てて,疾患を正しく理解し,様々な問題点に的確に対処することを目指していただければと期待致します.それによって,多くの患者の皆様の心の支えにつながればと心から祈念申し上げます.
2025年12月
一般社団法人 日本リウマチ学会
理事長
田中良哉
発刊に寄せて
自己炎症性疾患はいまではすっかり有名となったが,本疾患が1999年に認知されてからまだ20年余りの歴史しかない.国際免疫連合(IUIS)は2年ごとに原発性免疫不全症・先天性免疫異常症の分類改訂を行っているが,2011年版のIUIS分類で初めて11の自己炎症性疾患がTable 7として分類されるようになった.改訂の度に自己炎症性疾患の数が増え,最新の2024年版のIUIS分類では69疾患に及ぶ.
このように自己炎症性疾患は広く認知されるようになってきたが,リウマチ性疾患などとの異同がわかりづらいところもあり,一般臨床医が理解するのは難しいところもある.そこで日本小児リウマチ学会と厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「自己炎症性疾患とその類縁疾患の診断基準,重症度分類,ガイドライン確立に関する研究」班(研究代表者・平家俊男)を中心とした取り組みによって「自己炎症性疾患診療ガイドライン2017」が発刊され,広く日常診療に利用され,わが国における自己炎症性疾患の概念の普及に大きく役立ってきた.それから8年が経過し,その間に多くの新奇自己炎症性疾患が同定され,それらの同定に日本人研究者の多くが貢献している.さらに多くの新規生物学的製剤が使用可能となり,一部の自己炎症性疾患には非常に効果があることもわかってきた.そこでガイドラインの改訂の必要性があると判断し,日本免疫不全・自己炎症学会と厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「自己炎症性疾患とその類縁疾患の全国診療体制整備,移行医療体制の構築,診療ガイドライン確立に関する研究」班(研究代表者・西小森隆太)が中心となって改訂作業を行い,「自己炎症性疾患診療ガイドライン2026」発刊の運びとなった.
取り上げた疾患も増え,効果的な治療も見出されてきたなかでの発刊は喜ばしい限りである.自己炎症性疾患はまだまだわからないこともあるが,早期診断・早期治療介入によって予後は改善しつつある.より多くの先生方の手元に置いてもらい,1人でも多くの患者さんのQOLがよくなることを切に祈ります.
2025年12月
一般社団法人 日本免疫不全・自己炎症学会
理事長
金兼弘和
発刊に寄せて
このたび「自己炎症性疾患診療ガイドライン 2026」が刊行される運びとなりました.本書は,わが国では「自己炎症性疾患診療ガイドライン2017」以来,実に8年ぶりとなる自己炎症性疾患のための診療ガイドラインです.
自己炎症性疾患は1999年に概念が提唱されて以降,分子遺伝学や免疫学の急速な進歩により疾患の定義と理解が大きく変化してきました.従来は小児科領域を中心に議論されてきましたが,近年では原発性免疫不全症候群(inborn errors of immunity:IEI)の1つとして再分類され,成人領域においても認知度が高まりつつあります.すなわち,自己炎症性疾患は小児科と成人科が共有すべき疾患群となり,診療の連携や移行医療の重要性が一層増してきました.
しかし今なお,診断の遅れや地域間・施設間での情報格差が依然として存在し,医療の均てん化が課題となっています.本ガイドラインは,最新の科学的知見を整理し,国内外のエビデンスを集積して策定されました.特に希少疾患ゆえにランダム化比較試験が限られる中,多施設共同研究や国際的な連携によって得られた知識を反映し,わが国における標準的診療の確立に寄与するものです.
日本小児リウマチ学会は,早い時期から自己炎症性疾患に関するワーキング・グループを立ち上げ,自己炎症性疾患を含む小児リウマチ性疾患の診療・研究・教育の発展を牽引してきました.本ガイドラインは,小児科医のみならず,成人診療科医,臨床免疫学,遺伝学の専門家,さらには一般診療にあたる医師にまで広くご活用いただけるよう編纂されています.とりわけ小児期に発症する患者においては,成長発達や学校生活への影響を最小限にとどめ,成人期への円滑な移行を支援することが重要であり,本ガイドラインはそのための大きな道標となると期待されます.
最後に,本ガイドライン作成に多大なご尽力をいただいた関係各位の皆様に深く感謝申し上げます.日本小児リウマチ学会は,本ガイドラインの普及と実装を推進し,自己炎症性疾患を含む小児リウマチ医療のさらなる進歩と,患者と家族の未来の支援に引き続き貢献して参ります.
2025年12月
一般社団法人 日本小児リウマチ学会
理事長
宮前多佳子
序文
自己炎症(autoinflammation)という言葉は,米国国立衛生研究所Kastner博士らにより1999年に発表されたTRAPSの責任遺伝子発見の報告ではじめて記載された.自己免疫(autoimmunity)と対応する造語であり,自己炎症vs.自己免疫という2元論に結びつけられた.当初,自己炎症性疾患の定義として,自己免疫疾患の特徴である自己抗体や自己反応性T細胞の出現に象徴される獲得免疫系の異常が同定されず,主として自然免疫系の異常により発症すると定義された.その後2014年,乳児発症STING関連血管炎の原因遺伝子が発見され,ウイルス等の核酸に対するパターン認識受容体が関与する1型インターフェロン症が自己炎症性疾患として捉えられるようになった.同疾患では自己抗体等の自己免疫現象を合併することもあり,自己炎症性疾患の定義は,“炎症を主病態とする自然免疫系の異常により発症する,おもに遺伝性疾患からなる疾患群”に変更された.
自己炎症性疾患は希少疾患もしくは超希少疾患の範疇に入る疾患であるが,遺伝子検査等の遺伝学的検査により確定診断を行うことで疾患特異的な治療が可能であり,患者により適切な治療を提供できる.一方,その希少性により,リウマチ膠原病,臨床免疫を専門とする医師ですら経験できる症例数は少なく,臨床像の把握には限りがある.また,病態解明が不十分であり,標準的治療が定まっていない疾患が存在する.
このような状況下,平成26年度からの厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「自己炎症性疾患とその類縁疾患の診断基準,重症度分類,診療ガイドライン確立に関する研究」班,日本小児リウマチ学会の協力を得て,家族性地中海熱,クリオピリン関連周期熱症候群,TNF受容体関連周期性症候群,メバロン酸キナーゼ欠損症,ブラウ症候群,周期性発熱・アフタ口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎症候群について「自己炎症性疾患診療ガイドライン2017」を発行した.
その後,2017年から保険診療による遺伝学的検査がかずさ遺伝子検査室(https://www.genetest.jp/)を中心に構築され,診療での遺伝学的検査体制が整備された.また,同年には日本免疫不全・自己炎症学会が創設された.これらの診療ならびに研究・教育体制の変化により自己炎症性疾患を取り巻く医療環境は格段の進歩を遂げた.一方,ガイドラインで取り上げられなかった標準的治療が確立していない疾患における診療ガイドラインの作成,また,歴史的に臨床診断が先行した家族性地中海熱における,MEFV遺伝子検査を含む診断基準の明確化が期待された.
以上の背景をもとに,令和2年からの厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究事業「自己炎症性疾患とその類縁疾患の全国診療体制整備,移行医療体制の構築,診療ガイドライン確立に関する研究」班において,「自己炎症性疾患診療ガイドライン2017」の改訂を行った.今回の改訂では前回作成疾患から家族性地中海熱,周期性発熱・アフタ口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎症候群をとりあげ改訂,新規疾患として比較的患者数の多いA20ハプロ不全症,中條・西村症候群,化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群のガイドライン作成を行い,日本リウマチ学会,日本免疫不全・自己炎症学会,日本小児リウマチ学会の協力を得て,このたび「自己炎症性疾患診療ガイドライン2026」の発刊の運びとなった.
希少疾患でありランダム化比較試験の報告が乏しい疾患群であるため,自己炎症性疾患の診療ガイドラインを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」に従って編纂するにあたり,多くの方々から多大なる知識と協力を受けた.本ガイドラインは,CQならびに推奨文を改訂しなかった4疾患においても,病態等の新知見についてアップデートを加えており,自己炎症性疾患を専門としない医師も含めて診療にご活用いただきたい.最後に,本ガイドラインにより多くの方々に自己炎症性疾患を知っていただき,自己炎症性疾患診療の質を向上,新たなエビデンスの創出につなげ,患者QOL向上に貢献できることを期待する.
2025年12月
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究事業
「自己炎症性疾患とその類縁疾患の全国診療体制整備,移行医療体制の構築,
診療ガイドライン確立に関する研究」班
研究代表者
西小森隆太
発刊に寄せて
序文
CQ・根拠の確かさ一覧
略語一覧
作成組織・委員一覧
第1章 ガイドラインについて
Ⅰ 背景・目的と使用上の注意
診療ガイドライン作成の目的
本診療ガイドライン作成の経緯
本診療ガイドラインが想定する対象集団
利用上の注意
本診療ガイドラインの利用者
Ⅱ 本診療ガイドライン作成組織
診療ガイドライン作成
診療ガイドライン作成資金
利益相反
Ⅲ 重要臨床課題・アウトカムとクリニカルクエスチョン
重要臨床課題の選択
アウトカムの選択
クリニカルクエスチョン(CQ)
Ⅳ システマティックレビュー,エビデンスの質の評価と推奨の作成
システマティックレビューチームへのWeb講習会
エビデンスの検索と採用するエビデンスの選択基準
エビデンスの要約と確実性の評価
推奨の作成
本ガイドラインの普及と実行
本ガイドラインの更新
外部評価
外部評価者(名簿)
対象集団の参加
第2章 疾患の解説と推奨
A A20ハプロ不全症(HA20)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
B 化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群(PAPA症候群)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
C 中條・西村症候群(プロテアソーム関連自己炎症性症候群)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
D 家族性地中海熱(FMF)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ-a 推奨
Ⅱ-b 推奨
E 周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎症候群(PFAPA)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
文献検索式
スコープ
自己炎症性疾患診療ガイドライン 2017年版より
F クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
G TNF 受容体関連周期性症候群(TRAPS)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
H メバロン酸キナーゼ欠損症(高IgD 症候群・メバロン酸尿症)(MKD)
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
I ブラウ(Blau)症候群
Ⅰ 疾患の解説
Ⅱ 推奨
2017年版 文献検索式より
2017年版 スコープより
索引