希望のリハビリ
定価:3,850円(税込)
発刊によせて
わが国では,がんは今なお国民の生命と生活に大きな影響を及ぼす主要な疾患である.一方で,早期発見や治療法の目覚ましい進歩により生存率は着実に向上し,がんは「不治の病」から「がんとともに生きる」時代の疾患へと変化してきた.このような変遷の中,がんそのものに対する治療のみならず,がんやその治療に伴って生じる生活機能の障害,さらには心理・社会的課題に対しても,適切かつ切れ目のない支援を提供することの重要性はかつてないほど高まっている.
がんのリハビリテーション診療は,周術期の機能回復や合併症予防にとどまらず,薬物療法や放射線療法を受ける患者の機能維持,社会復帰支援,さらには進行がん・末期がん患者の症状緩和や生活の質の向上までを担う,極めて広範かつ不可欠な領域である.したがって,診療の均てん化と質の担保のためには,常に最新の科学的根拠に基づき,わが国の医療環境に即した診療指針を継続的に更新していくことが求められる.
2013年に初版,2019年に第2版が刊行された本ガイドラインは,わが国におけるがんのリハビリテーション診療の普及と発展に大きく寄与し,多くの医療現場で活用されてきた.第2版刊行後も,新たなエビデンスは着実に蓄積され,がん医療を取り巻く環境も目覚ましい進化を遂げている.こうした状況に鑑み,日本リハビリテーション医学会 診療ガイドライン委員会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン委員会が,厚生労働科学研究費補助金がん政策研究事業「がんのリハビリテーション,およびリンパ浮腫診療の一層の推進に資する研究」班と緊密に連携し,このたび第3版を上梓する運びとなった.
今回の改訂における最大の変更点は,臨床現場での利便性を最優先に考慮し,全体の構成を抜本的に見直したことである.第2版では原発巣,治療目的,病期などを組み合わせた構成であったが,第3版では利用者にとってのわかりやすさと臨床での使いやすさを重視し,各章を「がん種別」の構成へと刷新した.これに伴い,従来独立した章であった「化学療法・放射線療法」は,各がん種のクリニカルクエスチョン(CQ)の中へと統合された.これにより,「肺がん」「消化器がん」「泌尿器がん」「頭頸部がん」「乳がん・婦人科がん」「骨軟部腫瘍」「脳腫瘍」「血液腫瘍」,そして「進行がん・末期がん」という,より疾患特異的で実践的な構成となっている.
がん医療の高度化に伴い,患者が抱える問題は一層多様化しており,多職種によるチームアプローチの重要性は増すばかりである.本ガイドラインが,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士をはじめとする多くの職種にとって,臨床現場での最良の道標となることを願ってやまない.
本ガイドラインは,現時点で利用可能な科学的根拠と,わが国の医療体制,臨床適用性,患者の価値観を踏まえて作成されたものである.しかし,がん医療およびリハビリテーション医療は日進月歩であり,本ガイドラインもまた完成形ではない.今後も現場からのフィードバックや新たな研究成果を取り入れ,より実践的で血の通った指針へと育てていく必要がある.
本ガイドラインが,全国のがん医療に携わる多職種に広く活用され,がん患者とその家族に対する支援の質の向上に資するとともに,「治療を支え,生活を支え,その人らしさを支える」がんのリハビリテーション診療がさらなる発展を遂げることを心より期待したい.
2026年7月
厚生労働科学研究費補助金がん政策研究事業
「がんのリハビリテーション,およびリンパ浮腫診療の一層の推進に資する研究」 研究代表者
辻 哲也
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 診療ガイドライン委員会
がんのリハビリテーション診療ガイドライン委員会 委員長
宮越 浩一
本ガイドラインについて
第1章 総論・評価
CQ 01:がんのリハビリテーション診療に関する診療ガイドラインは存在するか?
CQ 02:がん患者の身体機能,日常生活動作(ADL),QOL評価にはどのようなものがあるか?
CQ 03:がん患者のリハビリテーションに関するその他の課題は何か?
第2章 肺がん
CQ 01:肺がん術前の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:肺がん術後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:肺がんで薬物療法・放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第3章 消化器がん
CQ 01:消化器がんで手術を行う予定の患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:消化器がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:消化器がん治療のために薬物療法を施行中または施行後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 04:食道がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第4章 泌尿器がん
CQ 01:泌尿器がんの治療のための手術が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:泌尿器がんの治療のための薬物療法・放射線治療が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:前立腺がんの治療のための手術が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第5章 頭頸部がん
CQ 01:頭頸部がんの治療のための手術が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法,音声言語療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:頭頸部がんの治療のための手術が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法,上肢機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:頭頸部がんの治療のための薬物療法・放射線療法が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法,音声言語療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 04:頭頸部がんの治療のための放射線療法が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第6章 乳がん・婦人科がん
BQ 01:乳がん手術を行った患者に対して,術後リハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
BQ 02:乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 01:乳房再建術を行った患者に対して,術後リハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:がんやがん治療に関連した認知機能障害がある乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:婦人科がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 04:婦人科がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第7章 骨軟部腫瘍
BQ 01:脊椎転移を有する患者に対して,脊柱不安定性や脊髄圧迫による麻痺のリスク評価を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
BQ 02:長管骨・骨盤骨転移を有する患者に対して,病的骨折のリスク評価を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 01:原発性骨軟部腫瘍の治療が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法・ADL訓練・患者指導)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:骨転移を有する患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法・ADL訓練・患者指導)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:骨転移を有する患者に対して,装具療法を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第8章 脳腫瘍
CQ 01:脳腫瘍の治療のための手術が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法・ADL訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:脳腫瘍の治療のための手術が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(高次脳機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:脳腫瘍の治療のための薬物療法・放射線療法が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法・ADL訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 04:脳腫瘍の治療のための薬物療法・放射線療法が行われる予定または行われた患者に対して,リハビリテーション治療(高次脳機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第9章 血液腫瘍
CQ 01:血液腫瘍と診断され,薬物療法・放射線療法・造血幹細胞移植中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:血液腫瘍と診断され,薬物療法・放射線療法・造血幹細胞移植中・後の小児患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:血液腫瘍と診断され,薬物療法・放射線療法・造血幹細胞移植中・後の患者(小児を含む)に対してリハビリテーション治療(運動療法)と併せて栄養療法を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
第10章 進行がん・末期がん
CQ 01:進行がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 02:苦痛症状を有する進行がん・末期がん患者に対して,症状緩和のためのリハビリテーション治療(包括的リハビリテーション治療・患者教育・マッサージなど)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?
CQ 03:進行がん・末期がんと診断された患者に対して,リハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチを行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?