株式会社 診断と治療社

はじめて学ぶ小児血液・腫瘍疾患 改訂第2版 ―To Do&Not To Doで理解する―

プライマリケアに携わる医師,小児の血液・腫瘍疾患をはじめて学ぶ方に必携の1冊!

外来や救急の現場で血液・腫瘍疾患を見逃さない!
専門性が高く,診断が難しい小児血液・腫瘍疾患の「すべきこと」「してはいけないこと」をスペシャリストがわかりやすく伝授.診断,対応,専門医への紹介や患児・保護者への説明のポイント,治療後の外来対応まで,知っておきたい知識が詰まった入門書となっており,現場ですぐに活かせます.
定価:
5,500円(本体価格 5,000円+税)

「はじめて学ぶ」シリーズ

発行日:
2025/10/08
ISBN:
9784787827265
頁:
200頁
判型:
B5
製本:
並製
在庫:
在庫あり
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序文

改訂第2版 序

 このたび『はじめて学ぶ小児血液・腫瘍疾患―To Do & Not To Doで理解する―』改訂第2版を上梓する運びとなりました.小児の血液・腫瘍疾患は,白血病やリンパ腫などの造血器腫瘍,脳腫瘍や神経芽腫といった固形腫瘍に加え,再生不良性貧血や血小板減少性紫斑病などの非悪性疾患を含む,極めて多様な病態を網羅する分野です.しかしその一方で,いずれも頻度が高いわけではなく,日常診療のなかで出会う機会は決して多くありません.そのため,「小児血液・腫瘍は難しそう」「専門医に任せるもの」として敬遠されがちな印象をもたれることも少なくありません.
 しかし,小児血液・腫瘍疾患の初発症状は,発熱や倦怠感,関節痛などの非特異的なものが多く,感冒などとの区別が難しいこともしばしばです.そのため,外来や救急の現場,特に当直中などにこうした症状の子どもと出会った際に,血液・腫瘍疾患の可能性を見逃さずに対応できるよう,プライマリケアにかかわるすべての医師に広く基本的な知識が求められています.
 本書は,これからこの分野を学びはじめる若手の先生方,つまり“はじめて学ぶ”皆様に向けて作られた入門書です.2017年に刊行した初版では多くの読者の方からご好評をいただき,実際の診療の場面で役立ったという嬉しい声も多数頂戴しました.今回の改訂第2版では,全体の内容を見直すとともに,新たに「小児血液・腫瘍疾患の最新検査」と「移植・細胞治療の基本知識」に関する項目を加え,最新の知見を反映したより実践的な構成としました.
 本書の特徴の1つは,各章において「To Do」と「Not To Do」を明確に示していることです.小児の血液・腫瘍疾患においては,初期対応の適否がその後の予後に大きく影響する場面が少なくありません.「すべきこと」と「してはいけないこと」を明確に理解しておくことは,初学者にとって極めて重要です.また,診療の根拠となるエビデンス(Evidence)に加えて,日常診療での判断を支える経験(Experience)にも重きを置いて記述しており,実際の現場で活用しやすい形を目指しました.
 本書が目指すのは,血液・腫瘍領域を専門とするか否かにかかわらず,「現場で出会ったときに迷わず対応できる」ための力を身につけていただくことです.「診断を疑う」「緊急性を判断する」「必要な検査を選択する」「不要な介入を控える」といった初期対応の基本が,診療の質を大きく左右します.さらに,血液・腫瘍に対して苦手意識をもっていた方が,その奥深さやおもしろさに気づくきっかけとなることも願っています.
 読者の皆様が本書を通じて,血液・腫瘍疾患に対する理解を深め,子どもたちによりよい医療を提供できる一助となれば幸いです.そして血液・腫瘍の世界に少しでも興味をもっていただけるきっかけとなれば,これほど嬉しいことはありません.未来ある小児医療の担い手として,皆様がこの分野に興味をもち,さらなる学びへと進まれることを心より願っております.

2025年9月
編集者一同 代表
加藤元博
東京大学医学部附属病院小児科





初版 序

 小児の血液・腫瘍疾患は比較的まれな疾患ですので,地域医療を担われている実地医家の先生や地域の中核病院の総合診療医,あるいは臨床研修医の先生方・看護師さんをはじめとするスタッフの皆さんにとっては,出会った経験が少ないかもしれません.学生のころから血液や腫瘍疾患は,よくわからないし,苦手という方も多いことでしょう.まして,「血液細胞なんて,みても全然わからないし…」という先生がほとんどでしょう.
 そんなあなたにぴったりの本を作ってみました.表題の「はじめて学ぶ小児血液・腫瘍疾患」から連想して「はじけっしゅ」とでも呼んでください.「けっしゅ」は血液腫瘍の「けつ」と「しゅ」を取りました.「はじけっしゅ」と,炭酸飲料の泡が「はじける」ように,読んで元気になる本をイメージしました.読むと頭の中に出血して血腫「けっしゅ」ができるわけではありませんのでお間違いなく.まして,血腫「けっしゅ」が,はじけて大出血になるわけでは,決してありません.
 「普通のプライマリ・ケア医のところには血液・腫瘍疾患の子どもなんて来やしない.せいぜい鉄欠乏性貧血くらいにしか会わないよ」と,仰りたいのはごもっともです.でも,考えてみてください.血液検査は毎日のようにしていますよね.検査結果を毎日のように判断していますよね.そんなとき,軽い異常だけれど,よくわからないと思ったことはありませんか? 新生児や乳児では検査値の基準範囲が成人とは違うことはよく知っているので,成人値からみたら軽い異常だけれど,多分心配ないと済ませてはいませんか?
 まれといわれる血液・腫瘍疾患は,本当にまれでしょうか? それとも気付いていないだけでしょうか? なにせ,グルコース—6—リン酸脱水素酵素(G6PD)異常症は,世界中に4億人以上いるといわれているのです.ひょっとして見逃しているだけかもしれません.軽い貧血があって,血清鉄は正常なのに,平均赤血球容積(MCV)がすごく小さい患者さんに出会ったことはありませんか? 国際化の進んだ現代ではサラセミアかもしれません.熱が続いているのに,白血球がなぜか少ない患者さんに出会ったことはありませんか? ひょっとしたら白血病かもしれません.足の関節が何度も腫れて,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が基準範囲上限付近の患者さんに出会ったことはありませんか? ひょっとしたら軽症の血友病かもしれません.きょうだいがりんご病(伝染性紅斑)になったときに,急に顔色が真っ白になった患者さんに出会ったことはありませんか? 溶血性貧血の患者さんがヒトパルボウイルス感染のために赤血球ができなくなった赤芽球癆かもしれません.
 この本には,プライマリ・ケア医として見逃してはならない疾患であり,初期対応の知識が必要なものに限って集めてあります.必要に応じて,適切なタイミングで専門施設に紹介できるように具体的に書いています.また,親御さん・患者さんにお話しするポイントも示しています.このように,プライマリ・ケアに従事する先生方および小児に関連する看護師さんなどに役立つように,より実践的で役立つ情報を具体的かつコンパクトに表すように工夫しました.血液・腫瘍疾患が疑われる子どもが実際に外来を訪れたときに,自信をもって次の行動に踏み出す,ピンときたらこの本の記述をざっと確認する,といった使い方ができるような本に仕上げました.この本では“To Do”および“Not To Do”などのクリニカルパールをわかりやすくまとめるとともに,必要最小限の知識を“Essence”として提示し,ヒントやお役立ち情報を“Memo”として随所にちりばめています.急ぐときは,本文をすっ飛ばして,この部分だけを読んでも役立つことでしょう.また,拾い読みもできるように,「暇なときに寝転んで読む」だけで,頭の片隅に残るような,持っても腕が疲れないような本にしたつもりです.
 この本はしばしば出会う子どもの血液・腫瘍疾患と血液検査値の異常に焦点を当てています.誰もができる医療面接と身体診察,臨床検査だけから出発して,適切な評価と管理に向けて少しでも迫れるようにやさしく道案内します.この本を傍らに置いて,勇気をもって血液・腫瘍疾患に挑戦してみましょう.

2017年9月
編集者一同
代表
石黒 精
国立成育医療研究センター教育研修部・小児がんセンター

目次

カラー口絵
改訂第2版 序 加藤元博
初版 序 石黒 精
執筆者一覧

Ⅰ 小児血液・腫瘍疾患の「急ぐとき」と「急がなくてよいとき」
 小児血液・腫瘍疾患の「急ぐとき」と「急がなくてよいとき」 松本公一

Ⅱ こんなとき,どうする? 診断に役立つクリニカルパール
 1 白血球数・分画に異常がある 加藤元博
 2 リンパ節が腫大している 森 鉄也,松岡明希菜
 3 貧血を鑑別したい 石村匡崇,白石 暁
 4 発熱・疼痛が続く 加藤元博
 5 出血症状を鑑別したい 松原康策
 6 腹部に腫瘤が触れる 米田光宏
 7 骨髄検査をしようと思う 富澤大輔

Ⅲ 画像で腫瘤がある! 画像が何か変! どうする?
 1 脳腫瘍 寺島慶太
 2 縦隔腫瘍 大隅朋生
 3 脊髄腫瘍 荻原英樹
 4 実はこんな画像も血液・腫瘍疾患ですよ 宮嵜 治

Ⅳ 小児血液・腫瘍患児への対応法・治療法のクリニカルパール
 1 輸血しようと思う 梶原道子
 2 腫瘍崩壊 山田悠司
 3 発熱性好中球減少症 松井俊大
 4 免疫性血小板減少症 力石 健,今泉益栄
 5 血友病の関節内出血と緊急の病態 石黒 精
 6 小児血液・腫瘍疾患の最新検査 加藤元博
 7 移植・細胞治療の基本知識 坂口大俊
 8 小児がん・造血細胞移植治療終了後の一般外来 清谷知賀子

Ⅴ 役立つ知識
 1 血算の見方 石黒 精
 2 主な抗腫瘍薬 加藤元博
 3 専門医への紹介の仕方と全国の専門施設 石黒 精

索 引

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