性感染症 診断・治療ガイドライン2026
定価:4,950円(税込)
感染症は,永遠に無くなることはありません.どんなに文明や医学が進歩しても微生物は環境変化に適応して絶滅することはないからです.人類が永遠に対峙していかなければいけない疾病です.微生物に対する根治療法がなく対症療法のみの感染症や,新興感染症,再興感染症の脅威は,HIV,エボラウイルス感染症,新型コロナウイルス感染症,梅毒の流行などからも知るところであります.変わりゆく微生物の脅威に人類は常に曝され続けています.
産婦人科にある周産期医学,婦人科腫瘍学,生殖・内分泌学,女性医学の4領域のどの領域においても感染症は様々な場面で関連があり,感染症の診断,管理,治療が産婦人科診療の診療結果に大きな影響を及ぼします.感染症を理解することが産婦人科診療の質を高めることになります.
産婦人科領域における感染症は,女性のライフステージ全体に関わる重要な課題であり,母体のみならず胎児・新生児,さらには次世代の健康,リプロダクティブヘルスにも大きな影響を及ぼします.エストロゲンのもとで起こる様々な女性特有の生理や病態,妊娠・分娩・産褥という特有の生理的環境下では,感染症の病態や臨床像は一般診療とは異なる側面を持ち,産婦人科医には本領域に特化した知識と判断力が求められます.近年,抗菌薬耐性菌の拡大,新興・再興感染症の出現,国際的な人の移動による輸入感染症,さらには医療の高度化に伴う医療関連感染など,産婦人科感染症を取り巻く環境は急速に変化しています.
日常診療の現場では,限られた時間の中で迅速かつ的確な対応を迫られることが多く,基礎から臨床までを体系的に整理した「入門書」の必要性を強く感じてまいりました.このような背景のもと,本書は産婦人科感染症の基本的概念を明確に示し,実臨床に直結する知識を整理することを目的として企画されました.医学部生,初期・後期研修医をはじめ,産婦人科診療に携わるすべての医療者が,感染症診療の全体像を理解し,適切な判断を行うための基盤となることを目指しています.各項目は,それぞれの分野に精通した執筆者により,病態生理,診断,治療,予防・感染対策をバランスよく解説していただきました.特に各論の章では「忘れてはいけない基礎知識」「ピットフォールと診療のコツ」「コンサルトのタイミング」を理解することで,“ゼロからわかる”解説文となっています.発刊にあたりご多忙の中執筆いただいた諸先生方に深謝申し上げます.また,本企画にご賛同いただきました診断と治療社様,企画を実装していただいた川名陽様にもこの場を借りて御礼申し上げます.
本書が,産婦人科感染症に対する理解を深め,安全で質の高い医療の実践に寄与するとともに,読者の皆様がさらに専門的な学びへと進むための一助となれば,編者としてこれに勝る喜びはありません.多忙な診療の中で本書を手に取ってくださるすべての方々にとって,実践的かつ信頼できる指針となることを願っております.
2026年1月
編集
川名 敬
三鴨廣繁
カラー口絵
序文 川名 敬,三鴨廣繁
編集者・執筆者一覧
第1章 総 論
A.感染症学のいろは
1 微生物学の基礎知識 相澤(小峯)志保子,髙田和秀,早川 智
2 産婦人科領域における病原体の特徴 小林 理
3 産婦人科感染症と解剖・組織・常在菌叢 早川 智
4 抗微生物薬の基礎知識 藤村 茂
5 症候群からみた病原体の推論 野上侑哉
B.感染対策と母子感染対策
1 妊婦健診でのスクリーニング 永松 健
2 母子感染症総論 山田秀人
3 新生児科における感染症 金子政時,谷口光代
4 産婦人科領域におけるワクチン接種 川名 敬
5 医療関連感染・職業感染を防ぐ 山岸由佳
6 薬剤耐性(AMR) 小泉祐介
7 抗菌薬適正使用支援チーム(AST) 浜田幸宏
第2章 各 論
A.感染症を引き起こす細菌
1 淋菌 野口靖之
2 梅毒トレポネーマ 出口雅士
3 クラミジア 藤原道久
4 マイコプラズマ・ウレアプラズマ 三鴨廣繁
5 肺炎マイコプラズマ 田代将人,泉川公一
6 B群β溶血性連鎖球菌(GBS) 高橋華子,大槻克文
7 A群β溶血性連鎖球菌(GAS) 早田英二郎
8 大腸菌,ブドウ球菌,連鎖球菌 山本皇之祐,木村文則
9 結核菌 髙田和秀,相澤(小峯)志保子,飯倉元保
10 非結核性抗酸菌 塩谷 優,南宮 湖
11 放線菌 三鴨廣繁
12 リステリア・モノサイトゲネス 山岸由佳
13 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 光武耕太郎
14 百日咳菌 羅ことい
B.感染症を引き起こすウイルス
1 サイトメガロウイルス(CMV) 谷村憲司
2 パルボウイルスB19 鈴木俊治
3 風疹ウイルス 倉澤健太郎
4 麻疹ウイルス 栃尾 梓,奥田美加
5 インフルエンザウイルス 山本竜太郎
6 単純ヘルペスウイルス(HSV) 川名 尚
7 ヒトパピローマウイルス(尖圭コンジローマ) 川名 敬
8 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV) 本田まりこ
9 ヒト免疫不全ウイルス(HIV) 喜多恒和,吉野直人
10 B型肝炎ウイルス(HBV) 荒川 悠,山岸由佳
11 C型肝炎ウイルス(HCV) 荒川 悠,山岸由佳
12 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1) 三浦清徳
13 ジカウイルス 忽那賢志
14 RSウイルス 板倉敦夫
15 新型コロナウイルス 新垣達也,関沢明彦
16 ムンプスウイルス 坪内弘明,下屋浩一郎
C.感染症を引き起こすその他の微生物
1 トキソプラズマ 小島俊行,吉田良一,吉田智子,五味淵秀人
2 カンジダ 近藤恵美,河野善明,吉村和晃
3 トリコモナス原虫 遠藤理恵,森 泰輔
4 赤痢アメーバ 平井 潤
5 ケジラミ 山口さやか
D.渡航感染症
1 渡航感染症 古本朗嗣
索引