株式会社 診断と治療社

【9月上旬発売予定】 下垂体疾患診療プロフェッショナル 脳神経外科医×内分泌内科医による実践アプローチ

下垂体疾患の診療に必要な診断,外科治療,薬物療法,病理,長期管理を,脳神経外科と内分泌内科の第一人者が体系的に解説.各項冒頭の「Core Insights」「Clinical Pitfalls」で要点と注意点を整理し,豊富なカラー図表,病理像,手術所見に加え,手術動画68本を収載.先端巨大症,クッシング病をはじめとする各種PitNETから,頭蓋咽頭腫,下垂体炎,中枢性尿崩症まで広く網羅した実践書.
  • 森山記念病院間脳下垂体センター センター長 山田 正三編著
  • 浜松北病院 学術顧問/同 糖尿病内分泌センター センター長 沖 隆編著
定価:
13,200円(本体価格 12,000円+税)
発行日:
2026/08/31
ISBN:
9784787827456
頁:
328頁
判型:
B5
製本:
在庫:
在庫無し

序文

はじめに

このたび,診断と治療社のご厚意により,本書の執筆に携わる機会を賜りました.長年にわたり下垂体疾患の診療と研究に携わってまいりました私の経験が,次世代を担う先生方の臨床の一助となれば,これにまさる喜びはありません.
振り返りますと,かつてともに歩み,多くのご薫陶を賜りました故・佐野壽昭先生と,「いつか下垂体疾患について教科書をまとめよう」と語り合いながらも,日々の診療の忙しさに追われ,果たせずにおりました.今回,このような形でその思いを形にすることができ,深い感慨と静かな安堵の念を覚えております.
近年,経鼻内視鏡手術の進歩は目覚ましく,脳神経外科領域においては多様な頭蓋底疾患へと適応が広がっております.その発展は誠に喜ばしいことですが,一方で,下垂体腫瘍が他の脳腫瘍と同列に扱われ,下垂体ホルモンの生理や病態の理解を欠いたまま治療が行われる場面が散見されるようにも感じております.
下垂体腫瘍は,確かに脳腫瘍としての側面を有しますが,同時に内分泌腫瘍としての特性を合わせもち,さらに下垂体という精緻な内分泌中枢に発生するという点で,きわめて特異な存在です.したがって,本疾患群の診療においては,脳神経外科のみならず,内分泌学,放射線医学,病理学など多領域の知見を統合した,真に学際的な理解が求められます.
本書では,このような観点を踏まえ,各疾患の診断と治療の実際について体系的に記述いたしました.特に外科治療については,QRコードを通じて手術ビデオを閲覧できるようにいたしました.臨床現場における一助となれば幸いです.
内分泌学的な記述につきましては,私が長年にわたり深く敬愛し,多くのご指導を賜ってまいりました,日本を代表する下垂体疾患の専門家である沖 隆先生にご執筆をお願い申し上げました.先生の豊富な臨床経験に裏打ちされた記述は,簡潔にして洞察に富み,これから下垂体疾患の診療に携わる若い医師のみならず,他科の先生方にとっても示唆に富む内容となっております.
病理学の分野においては,佐野先生の時代から分類体系は大きく変化しておりますが,その根底には先生が提唱された理論的枠組みが今なお息づいており,あらためてその慧眼に深い敬意を抱かずにはいられません.
私はこれまで,先端巨大症やクッシング病をはじめとする下垂体腫瘍,さらには頭蓋咽頭腫に対する外科治療に長年携わってまいりました.虎の門病院間脳下垂体外科を定年退職後は,森山記念病院において若いスタッフとともに間脳下垂体センターを立ち上げ,教育と臨床の両面で引き続き診療に従事しております.
「老害」とならぬよう自戒しつつも,下垂体疾患の外科治療への情熱はいささかも衰えることなく,いかにすれば患者さんに最善を尽くせるかを日々模索しながら,臨床にあたっております.
最後になりましたが,これまでの歩みのなかで,国内外を問わず,内分泌学,小児内分泌学,脳神経外科学,眼科学,産婦人科学,病理学,放射線医学,放射線治療学など諸分野の先生方から賜りましたご教示とご厚誼に,心より感謝申し上げます.
特に,私が間脳下垂体外科を専門とすることを決意する大きな契機となった,トロント大学の恩師である病理学科のKalman Kovacs教授,Eva Horvath教授,Sylvia Asa教授,内分泌内科のShereen Ezzat教授,脳神経外科のHarley Smyth教授,Michael Cusimano教授の諸先生方には,心より御礼申し上げ,深い敬意を表します.
また,虎の門病院脳神経外科歴代部長で脳神経外科の基本を教わった相羽正先生,下垂体外科の基本を教わった寺本 明先生,下垂体外科を専門とすることにご尽力いただいた臼井雅昭先生に,そして常に私を厳しく指導,教育していただいたと同時に,常に温かくご支援を賜った内分泌代謝科の諸先生方と歴代部長の紫芝良昌先生,小澤安則先生,竹内靖博先生,竹下彰先生に,小児下垂体部疾患の適切な診断と献身的な周術期管理をいただいた小児科の諸先生方,および歴代部長の横谷 進先生,伊藤順子先生,磯島豪先生に心より感謝申し上げます.
同時に,虎の門病院および森山記念病院の多くの同僚の皆様,ならびに国内外各施設から見学・研修に来られ,現在各地域で中核となって間脳下垂体疾患の診療に携わっておられる先生方の,さらなるご発展とご活躍を祈念いたします.
末節になりましたが,本書の執筆に際し,終始温かいご助言とご支援を賜りました診断と治療社の皆様に深甚なる謝意を表し,以上をもって「はじめに」の言葉とさせていただきます.

2026年7月吉日
山田正三





おわりに

下垂体という臓器に興味を抱いたのは,恩師・吉見輝也 教授による内分泌代謝系の講義がきっかけでした.たしか,ACTHとコルチゾールの日内変動についてのお話だったと記憶しています.当時はまだCRHが発見されておらず,AVPがCRHではないかと考えられていた時代でした.
講義を通して,下垂体ホルモンが標的臓器に影響を与え,その過剰や不足によって多様な症状を引き起こすことを知り,この小さな臓器の奥深さに強く惹かれました.クッシング病や先端巨大症のように疾患特有の症状もありますが,日常診療でよくみかける全身倦怠感のようなありふれた症状のなかにも,ホルモンの異常が潜んでいることに驚かされたのを覚えています.
私がこの道を志した頃,ホルモン測定はradioimmunoassayによって行われていました.感度も精度も現在の測定法とは比べものにならず,測定値だけで診断がつかないこともしばしばありました.そのようなときは,臨床所見や病態生理を一つひとつ丁寧に考え,論理的に整合性のある結論を導くことが求められました.今思えば,そうした経験が臨床医としての基礎を育ててくれたのだと思います.
大学院や留学時代には,ホルモン抗体の作成,小動物や培養細胞を用いた分泌調節機構の研究など,幅広い経験を積むことができました.David N. Orth 教授の研究室で過ごした日々は,Grant W. Liddle 先生にお目にかかることができたことも含めて,今も心に残る貴重な思い出です.研究に没頭しながらも,科学の楽しさと人とのつながりを実感した時間でした.若い研究者の方々にも,ぜひこうした経験をしてほしいと願っています.
実際に診療を行うようになると,患者さん一人ひとりの病像がまったく異なり,教科書通りにはいかない現実を何度も経験しました.本書では,そうした日常診療の中で気づいたこと,小さな学びを多くの方々と共有できるように心がけました.
下垂体の診療を続けるなかで,脳神経外科の先生方の存在の大きさを痛感してきました.若い頃は,手術をお願いした患者さんの手術をできるかぎり見学させていただきました.手術を拝見することで,患者さんへの説明がぐっとしやすくなりましたし,何よりも「生きた解剖」を学ぶ貴重な機会でもありました.本書の共著者の山田正三 先生をはじめ,名外科医と呼ばれる先生方の患者さんに向き合う真摯な姿勢には,いつも深い尊敬の念を抱いております.
内分泌科医としては,脳神経外科に紹介するまでの病態の把握や診断に全力を注ぐとともに,術後にはその結果を正確に評価する責任があります.本書では,山田正三 先生から画像や病理の実例を多く示されており,これから下垂体診療を学ぼうとする医師に大いにお役に立てていただけるものと信じています.
これまで診療の機会をいただいた多くの患者さん,そして日々ともに歩んできた同僚の皆さんに心より感謝いたします.特に,恩師の吉見輝也先生,留学時の指導者David N Orth先生,森田 浩先生,飯野和美先生をはじめ,多くの共同研究者にお礼申し上げます.最後に,共著の機会をくださった山田正三 先生,そして丁寧にご支援くださった診断と治療社の皆様に深く御礼申し上げます.

2026年7月吉日

沖 隆

目次

推薦の序  平田結喜緒
推薦の序  寺本 明
はじめに  山田正三
若い下垂体外科医へ― 私の歩んできた道  山田正三
下垂体内分泌を学ぶ若い医師へ― 内分泌診療の魅力と本質  沖 隆
動画について
略語一覧

第I部 総論
 A 間脳下垂体系のホルモンと調節機構
 B 下垂体前葉細胞の発生・分化
 C 日常診療における下垂体疾患
 D 眼科的検査
 E 画像診断
 F 機能診断総論
 G 下垂体手術
 H 鑑別診断
 I 周術期管理
 J 内科治療の基本
 K Pituitary Tumor Centers of Excellence(PTCOE)

第II部 各論
 A 先端巨大症
 B クッシング病
 C TSH産生PitNET
 D PRL産生PitNET(プロラクチノーマ)
 E 機能性ゴナドトロピン産生PitNET
 F 多ホルモン産生PitNET
 G double(multiple) PitNET
 H 非機能性PitNET
 I aggressive PitNET,転移性PitNET
 J 囊胞性下垂体腫瘍
 K 下垂体後葉腫瘍(下垂体部神経膠腫瘍)
 L 転移性下垂体腫瘍(他臓器原発)
 M 頭蓋咽頭腫
 N その他の下垂体腫瘍・腫瘍類似疾患
 O 下垂体炎
 P 下垂体卒中
 Q 下垂体過形成
 R 下垂体機能低下症
 S 中枢性尿崩症

NOTE
 1 big ACTH
 2 臨床経験からの示唆
 3 経鼻頭蓋底アプローチの基本解剖(剖検動画)
 4 下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)命名をめぐる論争
 5 術前の抗血小板薬・抗凝固薬の管理
 6 リングサイズ小話
 7 先端巨大症薬物療法の新展開―経口SSTR2選択的作動薬によるパラダイムシフト
 8 ACTH産生PitNET発症機序の「びっくり話」
 9 デキサメタゾン抑制試験(DST)の「怪」と「解」
 10 MRIに映らないクッシング病の手術の実際
 11 ステロイド離脱のコツ
 12 免疫再構築炎症症候群(IRIS)
 13 TSH産生PitNET診断の臨床的示唆
 14 フック効果およびマクロPRL血症に関連する測定値異常の臨床例
 15 頭蓋咽頭腫治療のパラダイムシフト
 16 再発例における大量ステロイド治療と骨折リスク
 17 ACTH単独欠損症
 18 先天性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(CHH)
 19 視床下部・下垂体茎障害と下垂体障害の内分泌学的鑑別のコツ
 20 グルココルチコイド補充療法のコツ
 21 尿崩症に利尿薬の珍治療


おわりに  沖 隆

和文索引
欧文・数字索引

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