株式会社 診断と治療社

【10月上旬発売予定】 アディクション診療実践ガイド 米国Addiction Medicine専門医が教えるキホンの知識と診療のコツ

日本人初の米国Addiction Medicine専門医として第一線で活躍する筆者が,アルコールや薬物,ギャンブル,ゲームなど,様々なアディクションの患者と日常診療で向き合う医療者に向けて基本からわかりやすく解説.診断・治療から,さらにアディクションの理解を深めるためのテーマまで,症例も交えながら幅広く紹介.患者の背景や人生に目を向ける「患者中心のアディクション診療」を行うために必携の一冊です.
  • Saint Louis University Family and Community Medicine Associate Professor 園田 健人
定価:
3,960円(本体価格 3,600円+税)
発行日:
2026/10/01
ISBN:
9784787827937
頁:
256頁
判型:
A5
製本:
並製
在庫:
在庫無し

序文

推薦の序:魂の回復を支える対話の臨床学

 若き日,医学生であった園田健人先生とともに,臨床医学教育の勉強会をオーガナイズし,その熱意と卓越した企画力で大きな成功を収めた経験は,今も私の記憶に鮮明である.当時から彼は,既存の知識体系を鵜呑みにするのではなく,常に「目の前の患者にとって真に有益な医学とは何か」を問い続ける姿勢を持っていた.その探究心は米国での専門研修(Addiction Medicine Fellowship)を経て,確固たる臨床哲学へと昇華された.
 アディクションとは,単なる物質や行為への依存ではない.それは,苦痛に満ちた現実から逃避せざるを得ない孤独な魂が見つけ出した「生きるための不完全な防衛反応」でもある.園田先生の『アディクション診療実践ガイド』は,そのような深い人間洞察に基づいた,極めて稀有な臨床のバイブルである.
 本書で園田先生は,複雑化する日本のアディクション問題を単なる病理として裁くのではなく,その背後にある痛み,貧困,トラウマといった個別のナラティブを理解する姿勢を説いている.精神科のみならず,あらゆる診療科で避けては通れないケアの真髄を,エビデンスに基づきつつも,温かな対話の精神で描き出した.多職種連携やスティグマの払拭を促すその眼差し
は,真の伴走者としての覚悟に満ちている.
 本書は,患者の人生という物語を再び書き換える手助けをするための「希望の羅針盤」である.もし今,あなたが臨床の現場で無力感に苛まれているなら,ぜひ本書を開いてほしい.園田先生の温かな論理が,必ずやあなたの臨床を,そして患者の明日を照らし出すはずである.アディクションという深い海を航海するすべての人へ,本書を心から推薦する.

2026年7月

群星沖縄臨床研修センター長
徳田安春




Foreword

It is a privilege to introduce this important work by Dr. Kento Sonoda, a colleague whose vision and commitment to advancing addiction medicine in Japan reflect both clinical courage and moral clarity. Our professional paths have been shaped in different healthcare systems, yet we now practice together and share a common recognition: substance use disorders remain among the most undertreated and misunderstood conditions in medicine, despite decades of scientific progress.
In the United States, addiction medicine has evolved from the margins of medical practice into a recognized and growing specialty. We have learned--often through painful experience--that stigma, fragmentation of care, inadequate training, and policy barriers can undermine even the most effective treatments. At the same time, we have seen how evidence-based pharmacotherapy, integrated care models, harm reduction strategies, and compassionate, patient-centered approaches can transform outcomes for individuals, families, and communities.
Japan now stands at a critical juncture. Changing patterns of substance use and demographic shifts create both urgency and opportunity. This text arrives at precisely the right moment. It offers not only a clinical introduction for diagnosis and treatment across a wide spectrum of substance and behavioral addictions, but also addresses the broader cultural, social, and structural factors that shape how addiction is understood and treated.
I am grateful for Dr. Sonoda fs leadership and for the opportunity to contribute, in a small way, to this effort. It is my hope that this book will inspire physicians across Japan to engage in addiction medicine with curiosity, humility, and a commitment to evidence-based care.
(July 1, 2026 )

Fred Rottnek, MD
Program Director, SSM Health Saint Louis University Addiction Medicine Fellowship

推薦の序

 本書の序文を執筆できることを,大変光栄に思います.園田健人先生は,アディクション診療の発展に尽力し,そのビジョンと揺るぎない使命感をもって,臨床医としての勇気と高い倫理観を体現している,私の大切な同僚です.私たちはそれぞれ異なる医療制度のもとでそれぞれのキャリアを歩んできましたが,現在はともに同じ職場(セントルイス大学)で診療に携わり,1つの共通した認識を抱いています.それは,アディクション診療は数十年にわたる科学的進歩が積み重ねられてきたにもかかわらず,依然として医学の中で最も十分な治療が提供されておらず,また誤解されている疾患の1つであるということです.
 米国では,アディクション診療は長らく医療の周辺領域に置かれてきましたが,現在では独立した専門分野として確立され,着実に発展を続けています.その歩みの中で,私たちは,時に苦い経験を通して,偏見(スティグマ),分断された医療体制,教育機会の不足,さらには制度的・政策的な障壁が,どれほど有効な治療法であってもその効果を損ない得ることを学んできました.一方で,エビデンスに基づく薬物療法,統合的な診療モデル,ハームリダクションの実践,そして患者一人ひとりに寄り添う思いやりのある医療が,患者本人のみならず,その家族や地域社会にも大きな変化をもたらすことを目の当たりにしてきました.
 現在,日本は重要な転換点にあります.サブスタンス使用の様相は変化し,人口構造の変化も相まって,アディクション診療の充実がこれまで以上に求められる一方,新たな可能性も広がっています.そのような時代に本書が刊行されることは,まさに時宜を得たものといえるでしょう.本書は,さまざまなサブスタンス使用障害および行動嗜癖の診断・治療について臨床的に実践しやすい形で解説しているだけでなく,アディクションに対する社会的・文化的背景や医療制度上の課題にも目を向け,アディクションがどのように理解され,治療されるべきかを多角的に考察しています.
 私は,園田先生の力強いリーダーシップに心から敬意を表するとともに,この意義深い取り組みにわずかながらも貢献できたことを大変うれしく思います.本書が,日本全国の医師の皆様にとって,アディクション診療への関心を深めるきっかけとなり,謙虚な姿勢と探求心を持ちながら,エビデンスに基づくアディクション診療の実践へとつながっていくことを心より願っています.

2026年7月

セントルイス大学アディクション医学フェローシップ責任者
医師 フレッド・ロトネック
(訳:園田健人)





はじめに

 本書を手に取っていただき,誠にありがとうございます.
 私は本書を,日々の診療でアディクションに向き合う医療従事者の皆様にとって,明日からの診療に役立つ一冊にしたいという思いで執筆しました.そして,本書の実践による積み重ねが,日本のアディクション診療のさらなる発展につながることを願っています.
 近年,日本でも違法薬物やさまざまなアディクションに関するニュースを目にする機会が増えました.大学生やスポーツ選手,芸能人による大麻使用,ギャンブルにともなう金銭トラブル,覚醒剤事件などの出来事が社会の関心を集め,大きく報じられています.しかし,私たちが目にしているのは,氷山の一角にすぎません.報道されることなく,日々アディクションに苦しんでいる人がいます.助けを求めたくても求められず,医療や支援につながる機会を失ったまま生活している人がいます.その現実は,ニュースからはなかなか見えてきません.
 私自身も,渡米前は大麻や覚醒剤といった薬物の名前こそ知ってはいたものの,臨床で実際に患者さんを診療した経験はありませんでした.アディクションは,どこか自分の日常とは遠い世界の出来事でした.
 転機となったのは,2018年に家庭医療専門研修のために渡米したことです.米国での日々の診療では,アルコール,オピオイド,覚醒剤,大麻,ギャンブルなど,実にさまざまなアディクションの患者さんと出会いました.診察室で語られるのは,単なる「サブスタンス使用」の話ではありません.そこには,慢性的な痛み,精神疾患,孤立,貧困,家庭環境,トラウマなど,一人ひとり異なる人生がありました.
 アディクションをみるということは,そのサブスタンスや行動だけをみることではありません.その人の人生そのものを理解しようとする営みなのだと,患者さんから教えられました.その奥深さと患者さんの人生に寄り添う医療の重要性に魅了された私は,日本人として初めてアディクション診療の専門研修(Addiction Medicine Fellowship)を修了しました.
 このフェローシップで学んだことは,診断や治療法だけではありません.私にとって最も大きかったのは,アディクションに対する価値観そのものを大きく変えたことでした.アディクションは,本人の意思が弱いから起こるものでも,本人の人格の問題でもありません.適切な治療と継続的な支援を必要とする慢性疾患です.しかし,社会や医療現場では,今もなお本人の意思や人格の問題という見方があり,その偏見やスティグマが,ときにアディクションそのもの以上に患者さんを苦しめ,医療から遠ざけてしまいます.
 米国で診療を続ける中で私が強く実感したのは,違法薬物の所持や使用に対して罰則を科すだけでは,患者さんや社会全体の転帰は必ずしも改善しないということでした.一方で,適切な医療や支援につながり,安心して治療を受けられる環境が整えば,人生を大きく立て直す方々を数多く目の当たりにしました.
 アディクション診療は,一人の患者さんを救うだけではありません.家族を支え,地域を支え,社会全体に長期的な恩恵をもたらす医療でもあります.だからこそ,本書では診断や治療法だけでなく,その背景にある考え方や診療の姿勢についてもお伝えしたいと考えています.知識だけでなく,「どのような眼差しで患者さんと向き合うのか」という視点も,読者の皆様と共有できれば幸いです.
 アディクション診療は決して専門医だけが担うものではありません.プライマリ・ケア医をはじめ,救急医,精神科医,内科医,外科医など,あらゆる診療科の医療従事者が日常診療の中でアディクションの患者さんと出会います.その出会いは,ときに患者さんの人生を大きく変える最初の一歩になるかもしれません.本書が,読者の皆様にとってアディクションをより身近な疾患として理解し,自信を持って患者さんと向き合うための一助となれば,これ以上の喜びはありません.
 最後に,この8年間,米国で多くの学びの機会を与えてくださった指導医や同僚の皆様,そして何よりも,私に多くのことを教えてくださった患者さんと地域社会の皆様に,心より感謝申し上げます.本書が,日本におけるアディクション診療のさらなる発展と,アディクションに苦しむ方々へのよりよい医療の実現に,少しでも貢献できることを心から願っています.

2026年7月

Saint Louis University Family and Community Medicine
Associate Professor
園田健人

目次

推薦の序:魂の回復を支える対話の臨床学  徳田安春
Foreword  Fred Rottnek
はじめに  園田健人

Ⅰ 総 論
A addiction medicineとは
 1 アディクションとは?
 2 日本におけるアディクション診療の必要性
 3 脳科学的な視点から
B 診療はここがポイント
 4 場面ごとに応じた役割の違い
 5 医療従事者のメンタルケア
 6 病歴聴取
 7 治療のフレームワーク
C 患者を理解する
 8 併存疾患
 9 予防手段
10 harm reduction(ハームリダクション)とは?

Ⅱ 各 論
A サブスタンスへの依存
 1 タバコ
 2 アルコール
 3 オピオイド
 4 ベンゾジアゼピン
 5 市販薬の乱用
 6 大 麻
 7 覚醒剤(アンフェタミン類の精神刺激薬)
 8 コカイン
 9 MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)
B プロセスへの依存
10 ゲーム障害
11 ギャンブル
C ケース紹介
  症 例

Ⅲ アディクションの理解をさらに深める
 1 動機づけ面接
 2 患者が家族と受診に来ている場合の対処法
 3 患者中心の言葉遣い
 4 アディクションを取り巻くスティグマ
 5 高齢者におけるアディクション
 6 トラウマとアディクション

Column
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 ゾンビタバコ
 ラッシュ
 ソーシャルメディアアディクション(SNSアディクション)
 砂 糖
 薬物と法律の関係

あとがき
索 引
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