
小児脳性麻痺のボツリヌス治療 改訂第2版
定価:5,280円(税込)
序にかえて
不随意運動は,脳神経内科・内科・脳神経外科・小児科・精神科・整形外科をはじめ,多くの専門領域の外来でみられ,近年ではボツリヌス治療や新しい内服薬(VMAT2阻害薬),深部脳刺激術などの外科療法の出現により,劇的な治療効果があげられる分野になった.しかし,その的確な診断や治療は実際に運動をみてみないと理解が困難なところがある.幸い本書は,19年前(第1版),そして9年前(第2版)に出版したビデオがみられる教科書としてたいへん好評をいただいた.第2版で製作したDVDもかなり在庫が少なくなり,今回第3版を出版することになった.
今版では,第2版出版時に比べて,多数の原因遺伝子が判明した遺伝性ジストニアや,以前は心因性と判断されていた遅発性ジスキネジアに対する薬物治療の発展など,10年足らずの間に,この分野での進歩を余すところなく取り入れることとした.
本書は前版同様,次の特徴をもっている.
1) 種々の不随意運動を,その発症機序からわかりやすく解説した.
2) 代表的な不随意運動について,今回はQRコードからすぐにスマートフォンを用いて動画をみながら習得できる.
3) 治療法については,実技(artもしくは技)が習得できるように詳説した.
本書の使い方として,期間を十分にとることができない場合,まず第1部第2章の「不随意運動のみかた」を動画とともに熟読いただくだけでも,おおよその鑑別ができるように構成している.第2部ボツリヌス治療や,第2部の外科的治療は必要に応じて読み進むことをお勧めする.
不随意運動の多くは,大脳基底核およびその小脳や大脳皮質を含むネットワークの異常で説明できる.基底核は入出力変換機としての構造をもち,感覚入力をいれて運動出力を(自動的に)出す,または,それの複雑化した(半ば自動的に)認知をして行動をする機能をもっている.それが神経細胞の変性やシナプス構築の異常で種々の病態を示す.したがって,Parkinson病などの不随意運動を起こす患者は精神症状や認知障害を示すこともある.逆に,不随意運動を通してヒトの精神活動まで含めた基本的な脳の基本構築を垣間みることができる.
また,本書で仮に「心因性」とさせていただいた種々の病態についても次第に器質的な病態が解明されてきている.決して「気の病」といったレッテルを張るべきではない.例えば,第2版であげた下部顔面の非対称な動きや,手足をくねらせるような動きは遅発性ジスキネジアに分類されるようになりVMAT2阻害薬で治療できるようになっている.さらに現在では内服やボツリヌス治療で治療可能となった局所性ジストニアの痙性斜頸などは,私が医学生であった50年前には「心因性疾患」とされていた.
本書を通じて,より多くの方々が日々の臨床を通じて脳神経系の正常の機能を解明する楽しみを経験していただき,ベッドサイドからベンチにいたる治療法の解明を志していただければ幸いである.
2025年4月 徳島にて
梶 龍兒 識
序にかえて
謝辞
献辞
執筆者一覧
動画の再生方法
第1部 不随意運動
第1章 運動制御のメカニズム
1 大脳皮質 島津秀紀
2 大脳基底核,視床 村瀬永子
3 小 脳 村瀬永子
第2章 不随意運動の診かた 梶 龍兒
1 医療機関における運動障害をきたす疾患・病態の頻度
2 運動の分類
3 異常運動の起源
4 Parkinson病とパーキンソニズム
5 各種不随意運動
6 異常運動の臨床的な鑑別
向精神薬と運動障害:遅発性ジスキネジアとVMAT2阻害薬
第3章 痙 縮 塚本 愛
1 定義・病因・臨床的特徴
2 疫 学
3 病態生理
4 治 療
第4章 振 戦 宮本亮介/西村公孝
1 概 説
2 分 類
3 Parkinson病および類縁疾患でみられる振戦
4 本態性振戦
5 本態性振戦に類似する振戦
6 その他の振戦
第5章 舞踏症 坂本 崇
1 定義,鑑別
2 病 態
3 病 因
第6章 アテトーゼ 坂本 崇
1 総 論
2 脳性麻痺
3 偽アテトーゼ
4 発作性運動源性舞踏アテトーゼ(ジストニア)
5 発作性非運動源性舞踏アテトーゼ
第7章 バリズム 松本真一/小泉英貴
1 概 念
2 病 因
3 病 態
4 治 療
第8章 ジストニア
8-1 ジストニアの臨床
1 定 義 福本竜也
2 分 類 福本竜也
3 疫 学 福本竜也
4 歴史的考察 目崎高広
5 臨床的特徴 福本竜也
6 表面筋電図における特徴 福本竜也
7 代表的なジストニアの臨床的特徴 福本竜也
8 後天性(二次性)ジストニア 福本竜也
9 特徴的な症候を合併するジストニア(ジストニア症候群) 福本竜也
10 治 療 福本竜也
8-2 遺伝性ジストニア 宮本亮介
1 ジストニアの分類
2 DYTジストニア
3 その他の遺伝性疾患に伴うジストニア
4 おわりに
8-3
X-linked recessive dystonia-parkinsonism(XDP,DYT3/PARK-TAF1)と新しい基底核のモデル 梶 龍兒/後藤 惠/森垣龍馬
1 XDPの臨床像
2 XDPの遺伝子解析
3 XDPの治療法
4 XDPの病理像
5 大脳基底核の新しいモデル:線条体コンパートメントモデルとXDP
ジストニアが初発症状でありうるParkinson症候群 梶 龍兒
第9章
ジスキネジア─薬剤誘発性運動異常症,発作性運動異常症,その他まれなジスキネジア 村瀬永子
1 薬剤誘発性運動異常症(薬剤誘発性ジスキネジア)
2 発作性運動異常症
3 その他のジスキネジア
第10章 ミオクローヌス 池田昭夫
1 定 義
2 病 因
3 分 類
4 病態診断のための検査
5 病態生理
6 ミオクローヌスと神経伝達物質
7 治 療
8 病因・原疾患別の診断と治療
9 他の不随意運動との鑑別
新しい進行性ミオクローヌスてんかん(PME)の発見
第11章 チック 松本真一/小泉英貴
1 診断,分類
2 診断ガイドライン
3 鑑別診断
4 病因による分類
5 病 因
6 病 態
7 チックの評価スケール
8 治 療
9 予 後
第12章 スパズム 野寺裕之
1 概 念
2 スパズムを起こしうる疾患とそのメカニズム
3 スパズムと類似した疾患との鑑別
第13章 筋痙攣 野寺裕之
1 概 念
2 原因疾患
3 発症機序
4 検 査
5 類似疾患との鑑別
6 治 療
7 Isaacs症候群
8 stiff-person症候群
第14章 運動失調 和泉唯信/沖 良祐/森野豊之
1 概 念
2 症 候
3 診断の進め方
4 運動失調を呈する疾患
5 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症に伴う不随意運動
第15章 Parkinson病でみられる運動異常症 宮本亮介
1 臨床的特徴
2 症 候
第2部
ボツリヌス治療
第1章 ボツリヌス毒素の基礎
1 はじめに 福本竜也
2 ボツリヌス毒素製剤の開発史 目崎高広
3 ボツリヌス毒素 福本竜也
第2章 ボツリヌス治療の実際
1 解 剖
a 痙性斜頸のボツリヌス治療に必要な解剖 坂本 崇
b 口顎部ジストニアのボツリヌス治療に必要な解剖 坂本 崇
c 痙攣性発声障害のボツリヌス治療に必要な解剖 坂本 崇
d 眼瞼痙攣のボツリヌス治療に必要な解剖 松本真一/小泉英貴
e 片側顔面痙攣のボツリヌス治療に必要な解剖 松本真一/小泉英貴
2 手 技 福本竜也
補 遺 その他の適応症 福本竜也
1 体肢のジストニア(limb dystonia)
2 口・下顎ジストニア(oromandibular dystonia)
3 振戦(tremor)
4 チック(tics)
5 ミオクローヌス(myoclonus)
6 カンプトコルミア(camptocormia)
7 むずむず脚症候群(restless legs syndrome)
8 片頭痛
9 分泌腺の異常
10 排尿障害
11 美 容
12 うつ病
第3部
運動異常症の外科的治療法
第1章 脳深部刺激術
1 DBSの手術法 後藤 惠/森垣龍馬
2 DBSの標的神経核の同定 後藤 惠/森垣龍馬
3 DBSの特性 後藤 惠/森垣龍馬
4 DBSの治療効果 後藤 惠/森垣龍馬
5 DBSの刺激条件設定 武内俊明
6 DBSの合併症 武内俊明
遺伝性ジストニアの難病指定について 宮本亮介
索 引